部屋の荷物もほとんど片付け終わり、私と萩原さんは少し休憩を入れることにした。
なんと部屋にはちょっとしたキッチンまでついていた。
……早乙女学園ってやっぱりすごい。
「萩原さんはどうしてアイドルを目指してるの?」
紅茶を飲みながら何気なく出た言葉だったが、萩原さんの返答は私の思いもよらないものだった。
「理由なんてないわ。……そもそも、私はアイドルになりたいわけじゃないもの」
「え?」
さらりととんでもないことを聞いた気がして、思わず聞き返してしまう。
「だから、アイドルになるためにこの学園に来たんじゃないの」
…………。
アイドルコースなのにアイドルになりたいわけじゃないってどういうことなんだろう。
……駄目だ、考えても分からないや。
「それにしても、」
私が頭にクエスチョンマークを浮かべているのを気にした様子もなく、萩原さんは再び口を開く。
「やっぱりこの学園、芸能専門学校だけあって男のレベル高いわね……貴方もそう思わない?」
「(レベル…?)でも、恋愛禁止だよ?」
私がそう言うと、萩原さんは呆れたような顔をした。
美人さんはどんな表情でも絵になるんだな…。
「私、何かに縛られるのが大っ嫌いなの。校則なんて破るためにあるようなものでしょう?」
「は、はぁ……」
「要はバレなきゃいいのよ」
堂々と言い放つ姿に、反射的に頷いてしまう。
「何でこの学園に来たか、って聞いたわよね」
萩原さんは紅茶のカップをテーブルに置き、私の目を正面から見据える。
「学園中の男を、私の虜にするの」
鋭い視線に捉えられ、目を逸らすことができない。
「いい男達を周りに侍らせて学園生活を送る……素敵じゃない?」
何と答えればいいのか分からず黙っていると、萩原さんは飲み終えたティーカップを持って立ち上がった。
「ま、貴方には理解できないかもしれないわね」
そう言った萩原さんは、笑っているのにどこか悲しそうだった。