「そろそろ離れろ」
そのまましばらく抱きついていた四ノ宮さんをべりっとはがした真斗が、何か言おうとしたとき
ガラッ
「間に合ったーー!」
赤い髪の男の人が、教室に飛び込んできた。
その人はキョロキョロと教室を見渡すと、目を輝かせてこちらに近づいてくる。
「マサと那月じゃん!一緒のクラスだったんだ!」
真斗と四ノ宮さんが声を掛けているところを見ると、三人はどうやら知り合いらしい。
「あれっ?女の子がいる」
急に赤い髪の人の視線がこちらに向いて、びくっと肩が跳ねる。
「俺の幼馴染だ」
「へぇ!俺は一十木音也!よろしく!」
いつもなら初対面の人の前ではガチガチに緊張するのに何でだろう。
キラキラの笑顔につられて、自然と笑顔になる。
「名字名前です。よろしくね一十木くん」
一十木くんの後ろで「可愛いっ」と言ってこっちに向かって来ようとしてる四ノ宮さんを、真斗が羽交い締めにしている。
……見なかったことにしよう。
「あ、それやめない?」
「え?」
一十木くんが真剣な顔で私の両肩に手を置く。
……何か失礼なことでもしてしまっただろうか。
「音也でいいよ!俺たちもう友達なんだし!」
しかしその口から出てきたのは予想外の言葉で。胸の奥がじんと暖かくなったような気がした。
「僕も四ノ宮さんじゃなくて、名前で呼んで欲しいです」
いつの間にか近くに立っていた四ノ宮さんが言う。
真斗をちらりと見ると、何も言わずに微笑んでいた。
「……ありがとう、音也くん、那月くん」
不安は尽きませんが、なんとかこの学園でやっていけそうです。