「はぁー…」


テストなんて消えてしまえ。そんな独り言が飛び出すくらい、今の私は切羽詰まっていた。


「やっぱ慎吾さんに頼むんだった…」


慎吾さんはああ見えて何でも器用にこなすから、勉強も普通にできるし。いっそのこと泣きつこうかと思ったけど、野球部を引退した彼は受験生だ。迷惑にはなりたくない。


「和さんも同じ理由で却下。準太は…二人でわかんなくなりそうだし」


他に頼れそうな人はいない。(もちろん利央は論外。きっとあいつも今頃半泣きだ)どうしようかと思った矢先、部屋のドアをノックする音が聞こえた。


「はーい」


お母さんだろうか。差し入れでも持ってきてくれたんなら嬉しいな。


「お邪魔しまーす…お、やってるな」

「慎吾さん!?ほ、本物…?」

「ははっ何だそれ、本物の慎吾さんですよー」


片手にビニール袋を持って部屋に入ってきたのは、正真正銘本物の慎吾さんだった。


「お前絶対行き詰まってると思ってさ、助けにきた」

「慎吾さーーん!」


慎吾さんがすごく輝いて見えた。今なら腰に回っている手も見逃せる気がする。


「ほら、時間ないんだから始めるぞ」

「はーい!」

「お礼はしっかり貰うからな」

「はーい!……ん?」


何かおかしい単語が聞こえた気がする。テーブルを準備する慎吾さんの顔はひどく楽しそうだ。


「早く座れって」

「や、やだ!何か身の危険を感じる」

「何もしねぇって……多分」

「……」

「……遠ざかるな」



(名前、こっち来いって)
(目と手がいやらしいから無理!)
(……ンな事ねぇよ?)
(その間は何)
(別に?)
(え、ちょ、来るなぁぁ!)





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