「何で……」
思わず頭を抱えたくなった。目の前には芸能人かと思いたくなる程の人垣。その中心で愛想を振り撒いている(ように見える)人間には確かに見覚えがある。
(……嬉しそうにしちゃって)
本人にそのつもりがなくても、見ていて面白い訳がない。
(大体、日本に帰って来たなら連絡くらい……)
と、その時。
ばちり、と目が合ってしまった。
(……え?)
「待ってろ」と。少し遠くに停めてある車に目をやりながら、彼の口は確かにそう示した。
「よ、久しぶり。元気にしてたか?」
「……ディーノなんて、知らない」
「へ?」
私の気持ちも知らずに平然と話すディーノに苛々した。(嘘、勝手に怒ってる子供っぽい自分が一番嫌だ)
「何か怒らせるような事した?」
「……」
「来るの黙ってたから?それとも学校まで押し掛けちまったからか?」
「ディーノ、」
「ん?」
「ディーノは悪くない、から……」
嬉しさやら悲しさやら自己嫌悪やら、とにかく色んな感情が入り雑じって、頭がおかしくなってしまいそうで。目の奥がつんとして、視界がどんどん歪んでいく。ディーノの大きな手は私の頭を引き寄せた。
「よしよし」
「な、に……」
「寂しい思いさせてごめんな」
「……」
「ただいま、名前」
「……お帰りなさい」
(……いつまで、日本に居られる?)
(大体、二週間くらいだな)
(……毎日会いに行くんだから)
(元からそのつもりだったぜ?)
(買い物も、ドライブも……遊園地だって)
(仰せのままに)