今朝はやけに冷える、と部屋の襖を開ければ見慣れない光景が広がっていて、思わずほぅと息を洩らす。屋敷を囲む木々や池に薄く張った氷の上に、今朝早くから降り続いているらしい雪がうっすらと積もっている。外へ手を伸ばせば、手のひらに降りた冷たい結晶が融けていった。
「――honey、」
不意に後ろから声を掛けられ、同時に温もりに包まれた。独特の南蛮語を話す人は、知る限り一人しか思い当たらない。
「政宗様、」
「……冷えてるな」
後ろから抱き締められ、外へ伸ばしたままだった手を両手で包まれる。布越しに感じる温度差に、結構な間外に出ていたのだと気付かされた。
「つい、見入ってしまって…」
「Ah?そうか…名前は、雪を見るのは初めてだったか」
「ええ。話には聞いておりましたが……これ程、美しいのですね」
それから暫く、そのままの体勢で雪景色を眺めていた。
「――来年も、再来年も、その次も」
政宗が静かに口を開く。
「また、お前と雪が見てェ」
「……はい、」
「なァ」
「……」
「好きだ」
返事の代わりに、背中の温度へそっと身体を預けた。寄り添った二人の周りに、ふわりふわりと雪が舞う。
それはまだ、日本にクリスマスが伝わっていなかった時代。――奇しくもその日は、25日だったという。