植草からボールを奪ってそのままドリブルでディフェンスをかわしつつ、最後はレイアップシュート。ボールが入ったことを確認し、ふうっと一息つく。
「仙道、お客さーん!」
声のした方を見ると、体育館の入り口には見間違えるはずのない女の子が立っていた。
「名前、どーしたの?」
「どーしたの、じゃないよ!」
そう言って目の前に差し出されたのは、進路希望調査と書かれたプリント。
「先生が『出してないのは仙道だけだ!』って怒ってたよ」
「提出日っていつだっけ」
「一週間も前だっつの!」
「えー」
「可愛くない!」
ったく何で私が…とぶつぶつ文句を言う名前には悪いけど、忘れてて良かったなーと思う。
「仙道」
「ん?」
「頭の手を退かしなさい」
「嫌」
俺よりも頭二つ分低い位置にある彼女の頭を撫でる。男とは違うさらさらした髪が手に絡まって、なんというか。
「癖になりそう」
「っばか、放して、帰る!」
「えー、見ていかない?」
「いかない!」
「じゃあ放さない」
「はああ!?」
せっかく体育館まで来てくれたんだから、俺のプレーを見て欲しいと思うのが男心。
「ほら、ずっとこのままでいいのかなー?」
「…っちょっと!ちょっとだけだからね!」
「よっしゃ!」
こりゃあ気合い入れなきゃな。名前の前でヘマなんて出来ない。
さあ、いこーか。
俺はこっそりとこちらを窺っていた部員に声を掛け、試合を再開させた。
(ナイッシュー仙道!)
(仙道調子いいなー)
(ちくしょー俺も彼女欲しー!)
(彼女じゃないですから!)