栄治がアメリカへ行くと決めた時、私は何も言う事が出来なかった。(あまりにも吃驚し過ぎて声が出なかったのだ)
自分で決めたくせに栄治の目は既に涙でいっぱいで、つられるように私の目からもぼろぼろと零れた。まるで幼稚園児のように声をあげて泣いた。
『えいじ、っ行かないで、』
「ぐす、おれだって、名前と、はな、離れるなんて…」
栄治の夢を応援したいという気持ちが確かにあった。でも、いざ離れてしまうとなると駄目だった。どうやったらアメリカ行きを止めさせられるか、そんな事を考えてしまう自分が嫌いだ。
『…っ、えいじ!』
なんとか絞り出した声は情けない涙声だったけど、どうせ栄治もぐしゃぐしゃに泣いてるんだから関係ない。
「っ、」
ぼろぼろと涙を流しながら、栄治のすっかり男らしくなってしまった手を握る。ずっとバスケに懸けてきた、大好きな手。
『…っ、がんばれ!』
栄治は一瞬だけ大きく目を見開いた。止まることのない大粒の涙が零れる。
「っおれ、がんばるから!」
泣きながら笑っている私たちは、端から見れば奇妙に見えただろうか。
『泣くな!』
「名前だって、泣いてんじゃん!」
『泣いて、ない!』
なんだよ、それ。
栄治は口を尖らせて、それから不敵に微笑んだ。
「すっげー強くなって帰ってくるから、待ってて」
泣きすぎて目が赤くても、頬っぺたがまだ濡れていても。まっすぐ視線を交えて言い切った栄治は、最高に格好よかった。
(泣いて帰って来たら承知しないから)
(……はい)