「わっ、」


目の前の小さな体が傾いて、咄嗟に腕が伸びる。掴んだ腕をぐいっと引き寄せると、見た目通り軽い体はすっぽりと俺の腕の中に収まった。


「ありがとー」

「ちゃんと前見ろ」


――というやり取りも、今ので三回目。にへら、とどこか気の抜けるような笑顔にため息をつくのも三回目。


「流川くんの手、大きいねぇ」


彼女はあまり気にしていないようで、未だに掴んでいる俺の手に視線を向けて言う。俺はその手を離して、自分のそれよりも小さな手に重ねた。


「バスケットマンの手だ」

「……」


どこかのどあほうみたいな事を言うな、と言いそうになった。けれど、自分が奴に似ていると言いたいわけではないだろう。純粋に、バスケをしている手だと思われてるのなら、まあ――

(嬉しい、かもしれない)


「えへー」


照れ隠しに髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜても、こいつは幸せそうに笑うだけで嫌がってる素振りを見せない。


「部活、行くぞ」


頭から手を離して、ぶらぶらと揺らしていた手を絡めとる。今度は転ばないようにとしっかり手を引きながら、体育館へ向かった。



(……アヤちゃん)
(……うん)
(何であいつら付き合ってないんだろ)
(本当にね)



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