カバンの中で鳴っている携帯を見て、思わず二度見した。だって英士だよ。いつも最低限のメールで済ます、あの英士が。そう思っている間にも携帯は鳴り続けていて、慌てて通話ボタンを押した。
『英士!電話なんて珍し…』
「だーれだ?」
……ちょっと待て。
明らかに英士じゃない、そしてすごーく聴き覚えのある声がした。英士の携帯に出るなんて、あり得ない人。
「あれ、おかしいなー聴こえてる?」
『……もしかして、ユン?』
「大正解〜久しぶり!」
元気だったー?なんて聞いてくるユンの声は前と変わってない。
『え、何で英士の携帯使ってんの?』
「僕の充電切れちゃったんだもん」
『や、そういうことじゃなくてね』
あんた韓国にいるはずでしょーが。そう言うとユンはさらっと爆弾を落とした。
「あ、今ヨンサの家にいるから」
『は?』
だから会いにきて、なんて言っているこの男をどうしようか。大体帰ってんなら連絡の一つや二つ入れるでしょ普通。あ、充電切れたって言ってたっけ。でも日本に来る前とかいくらでも時間あったはずで、ってか英士も英士で知ってたならメールくらいしてくれても、
……直接会って文句言うしかないか。
『今から行くから待ってて』
「もう暗いよ?どうせなら明日、」
『今!行くから!』
ユンの答えは聞かずに電話を切った。コートを掴んで家を出る。
言いたいこともいっぱいあるし、聞いてもらいたいこともいっぱいあるけど。
――まずは、思いっきり抱きついてやるんだから。
(何してんの)
(あ、ヨンサ。名前今から来るってさ)
(はぁ?)
(迎えに行って来るね!)
(ちょっと、)
(僕って愛されてるなー)