がこん、と音をたててジュースが出てくる。同時に売り切れの表示が光った。よし、今日はついてる。
『あ、すいません』
後ろに男の人が立っているのに気がつき、場所を譲る。
「……あ、」
ちょうど販売機に背を向けたときに、後ろから声がした。どうかしたのかと近寄れば、さっきの人が販売機の前で固まっている。
『どうかしました?』
「え、いや、何でも……あ、」
そこで言葉は不自然に区切られ、男の人の視線はある一点に注がれていた。さっき私が買った、期間限定りんご100パーセントジュースだ。
……もしかして、
『りんご、好きなんですか?』
恐る恐る聞いてみると、別にとぶっきらぼうに返された。しかし彼の熱視線は私の手元に注がれたまま。
……。
…………。
無理。この目には勝てない。
『……私、実は横のみかんジュースが飲みたかったんですよ。間違えてボタン押しちゃって』
よかったら交換してくれませんか?
そう言うと一瞬だけ、確かに彼の目が輝いた。
「……いいけど」
『ありがとうございます』
それから彼がみかんジュースを買って来て、交換するときに小さな声でありがとう、と言われた。
『いえいえ!男の人でりんご好きって中々いないし、なんか親近感わいちゃって!』
真っ赤になった彼の顔が、まるでりんごみたい、と思った。