真田が家から笹を持ってきて、誰かが七夕パーティーをしようと言い出して。幸村の面白そうじゃないかという鶴の一声で、立海テニス部の本日の練習メニューが決まった。柳からのメールでそれを知った私はというと、教室で何をするでもなくぼんやりしていた。
「仁王、メールきた?」
「きた。真田も余計な事してくれるのぅ」
向かい側で携帯を操作している仁王は、少し気だるそうに前髪をかき上げた。銀の髪がぱら、と指の隙間から滑り落ちる。
「あれ、お前らまだこんなとこいたんだ。早く行かないと幸村が怒るぜぃ」
教室のドアからひょっこりと赤い髪が覗く。どこにいても目立つ赤が。
「あ、ブンちゃん」
「ブンブン」
「止めろ。特に仁王」
「嫌なんか」
「嫌だ!」
仁王がからかって、ブン太がそれに突っ掛かって、仁王はそれを軽くかわす。このクラスではよく見られる光景だ。
「どこ行くんだよ仁王!」
「部室じゃ。幸村の怒りに触れたくないからのぅ」
「私も行くー」
「待てって!俺も行くっつの!」
慌てて追いかけて来るブン太を見て、私と仁王は顔を見合せて笑った。
*
「あ゛ーわかんねぇ!」
「間違ってるぞ赤也」
「ここはこうやって折るんですよ」
騒がしい後輩の声が外まで響いている。部室の中にはもうメンバーは全員揃っていて、中央のテーブルでは――
「もー柳先輩と柳生先輩が全部作って下さいよー!」
「作ってみたいと言ったのはお前だろう、赤也」
柳と柳生、そして赤也が七夕飾りを作っているようだ。その様子を幸村が微笑ましく見ている。
「あ、名前先輩やっと来たー!助けて下さい!」
「頑張ってー」
「何すかそれ、助ける気ゼロじゃないっすか!!」
入って来た私達に気がつくと、まるで天の助けと言わんばかりに駆け寄ってくる赤也。後ろの方では真田とジャッカルが笹を立てている。
「よし、皆集まったね。今から短冊を渡すから、それぞれ願い事を書いてくれ。書いたら俺に持ってきて」
幸村から渡された短冊を持って、各々好きな場所で書き始めた(ちなみに、真田は習字セットを持参していた)
「名前先輩、何て書いたんすか?」
「赤也こそ。何て書いたの?」
「……」
「言ったら叶わない、なんて思ってたり?」
「なっ……大丈夫っす」
からかいの色を含んだ私の言葉を遮って言う赤也の顔は普段からは考えられないほど真剣な表情で、少し面食らってしまった。
「絶対、叶えますから」
でも、今はナイショです。ニッと口端を上げて、赤也は幸村の方へ行ってしまった。
「これで全員だね」
幸村は手元の短冊に目を通した後、ふふ、と笑った。
「どうしたんだ?幸村」
ジャッカルが心配そうに声を掛ける。
「いや?……ただ、俺達は立海なんだなーって思って」
「は?」
私達はよく分からないという顔をしているが、柳だけがどこか納得したような顔でノートに何か書き込んでいる。
「纏めて一番上のところにつけようか。…真田」
「分かった」
先程立て掛けておいた笹の一番高いところに真田が短冊をくくりつけ、部員達はそれを見守っていた。
笹の頂上で揺れる色とりどりの短冊。それには、『全国制覇』の四文字がしっかりと記されていた。