卒業式もとうとう終わってしまった。周りの人は友達と写真を撮ったり、別れを惜しんでいたり、号泣する後輩に囲まれていたり、それぞれの時間を過ごしている。寂しいね、なんて言い合うクラスメイトを、一線引いたように遠く感じていた。昨日までは、自分が卒業だなんて実感はなかった。
はらりと落ちた桜の花びらを目の端で捉えて、急に目頭が熱くなる。
(卒業、私が、みんなが、)
もう、今日限りでここの生徒ではなくなったと。そう思わされた。
「名前せんぱい、」
背後から、声。顔を見なくても誰だか分かってしまうくらい、よく聞き知った声だ。
「こっち見ないで、そのまま聞いて下さい」
振り返ろうとした私を遮って、赤也は大きく息を吸った。
「俺、頑張りますから!」
ほとんど怒鳴り付けるような勢いで、しかし凛とした声で赤也は言った。
「…先輩たちが居なくても、ちゃんと」
「うん」
「ちゃんとした部長になって、誰にも負けねーくらい強くなって、……それで、」
だんだん語尾が震えてきたのには、気付かないふりをした。赤也が、あんまり真剣だったから。
「今度こそ優勝っ、して…先輩に報告しに、いきます!」
気付いたら、涙がこぼれていた。声が震えないように、赤也に負けないくらい大声で言う。
「赤也っ!!」
びくっと姿勢を正す赤也が簡単に想像できて、口元に笑みが浮かんだ。
「、頑張れ!!」
はいっ!
振り返ると、真っ直ぐこちらを見据える赤也と目が合った。力強い眼差しは、部長の目だ。
「……練習見に行った時、腑抜けた顔してたら承知しないからね」
そう言った瞬間、赤也の顔が崩れた。鋭い目には涙が浮かび、無理矢理の笑顔をつくる。泣き笑いの表情が、どうしようもないくらい愛しく感じた。
「名前先輩……卒業、おめでとうございます」
ありがとう、頑張れ。そう伝わるように、赤也のくせっ毛を少し乱暴に撫で回した。
(去りゆく者の想い、残される者の決意)