「多季」

『……市丸か…』





虚圏に来てからつまらない。


バカみたいに突っ掛かってくる奴もいないし
おれは無関係と言わんばかりにシカトしてくる三席もいない。
怒鳴ってくる副隊長もいなけりゃ
慌てて止める奴もいない。

何より……なまえがいない。





「なんや、おもんなさそうな顔してんな」

『……その通りだから仕方ねェだろ』

「…そういえば…もうすぐやね。久瀬サンの命日」





ああ…だからか……
こんなにもイライラするのは…




そうだな…この時期だったな…


アイツが死んだのは……




今頃なまえの奴、泣いてるんだろうな…


壱葉も彗も…皆ボーっとしてんだろうな…


壱葉は副隊長として力が備わってるけどなまえのこととなると歯止めが効かねェ…力のある奴だから暴走した時止めるのが大変だ…
隊長の言うことは素直に聞くが…でも、あいつはほんと凄ェ奴だよな…今の副隊長の地位についてる奴らの中で力も知性も並外れて秀でてるのはあいつだ。


戒はいつも通りだろうな…あいつ、根っからのクールだし。
何考えてんのかわかんねェこと多いし…でも意外とノリいいんだよな…なんだかんだで結構喋るしな…あいつと飲む酒はマジで美味ェ…あいつも酒好きなだけあって強いしな…


礼は真っ直ぐだからな…あんな優しい心を持った奴
みたことねェぐらい優しいから…最初は頼りなさそうな奴だと思ってたけどあいつ、結構根性あるし…きっと今も頑張ってんだろうな…


彗のバカは……あいつは相変わらずだろ。気分で生きてるからな。完全なる単純バカだ、あいつは。
…ふっ…どうせ十三番隊の隊舎の屋根で座ってため息でもついてんだろうよ…あいつの相手、誰がしてんだろうな。
結構寂しがりだからな…あいつ、女だったらめちゃくちゃモテただろうな………あ、でも結構あいつ女から人気あったな…霊術院に居た時も女から手紙とか食い物とかもらってたし……





『……!』

「どないしたん?」

『……いや………なんでもねェ…』





……なんで、アイツらのこと考えてんだよ…オレ。


ふざけんな。


おれはアイツらを捨てたんだ。


おれの望みのために…あいつらを犠牲にしたんだ。


もう、他の幸せを求めるのはやめたんだ…


それが正しいとか、正しくねェとか俺には関係ないんだ。


もう、引き戻せない。




俺はもう……前に突き進むしかないんだ。





「行こか、多季」

「ああ」





俺には、もうこの道しかないんだ。


あいつらとの思い出も、繋がりも…全部断ち切る。



俺は、藍染の下で俺の望みを叶える。