『…はっ…は、っは…!』
「はー…はー…」
虚は残り三体。
一体は京楽が倒した。もう一体は藍染が。そして残りのもう一体は逃げ出そうとしている。
颯斗となまえはその虚に瞬歩で近づき、斬ろうとした。だが、虚の目の前には一人の少年がいた。
「――ッ!」
銀色の特殊な髪色を持つ少年は足がすくんでいるのかその場から動けないらしい。颯斗は速度を上げて虚を通り越し、その少年に覆いかぶさった。
虚は虚閃をためている。
虚が攻撃するよりも先に虚を昇華しようとするなまえ。斬魄刀を構えて虚を斬ろうとした。
『ッ颯斗!!一流、天に流れ地に降り注げ…"神無"!』
だが、同じく虚の虚閃も発せられた。
カ…ッ!!
『……………颯斗ッッ!!!』
「…ぅ…そだろ…」
なまえは目を見開き、血まみれの颯斗の元に走り寄る。戒は颯斗の姿に体が硬直した。
『颯斗!…っ颯斗ッ!!』
「ごほ…ッ!…っぁ…あー……シクッたなぁ…」
『颯斗ッ!』
「よォ…なまえ…」
『バカッ!!なんで避けなかったのよ!!』
「いや…げほっ…!!…よ、避ける余裕…なかった…んだよ…」
颯斗は吐血し始めた。颯斗の腹部には完全に穴が開いている。なまえはパニックになりそうな頭で必死に冷静さを保たせようとしていた。
『ッ礼!!颯斗の処置をして!!』
「…ああ…もう、いい…無駄…だから、よ…」
『何言ってんのよ!!』
礼が颯斗を診ている側で諦めの言葉を口にする颯斗に怒るなまえ。だが、同時に礼の手が止まる。
『…礼…?どう、したの…?』
「…………っ…!」
瞳に涙を溜める礼はなまえに顔を上げて静かに首を横に振った。
「……な?…ぅ…ッ、言った、ろ…?」
『……や、だよ…?颯斗…ッ!信じないからね…ッ!?』
「…なァなまえ……ゲホゲホッ…!っ…久々に…俺と‥話しよ、うぜ…」
『何…言ってるのよ…!こんなときに…!!』
颯斗は自分の手をなまえの頬に当て、涙を拭う。颯斗の手についていた血がなまえの頬についた。なまえは自分の頬に添えられている颯斗の左手をギュッ…と強く握りしめる。
「なまえ、ってさ…零番隊…好きだよな…」
『…ふっ…ぅ…っ、!
…零番隊が、大事なのは…!颯斗から…っ、預かっ、たからなの…!!颯斗が隊長をすすめてくれなかったら…!今、この子たちはいないの…!私はいないの…ッ!だから…っく…っ、だから…凄く大事なの…!』
「……ははっ…そう、だったのか…ハァ…ハァッ……!俺、さ…なまえが零番隊ばっか構うから…はぁ…ヤキモチ妬いてたん、だぜ…?ゼェ…」
『バカ…ッ!私の一番は…っ、ずっと…ずっと颯斗だよ!』
「……へへ……はぁ…はぁ…お前を…守りたかったんだけど、なあ…げほっげほ…ッ!…はぁ…やり残したこと、結構あるんだよなァ…」
『胡麻豆腐…毎日食べさせてあげるから…!お、美味しい…胡麻豆腐の作り方…!教えてくれ、るんでしょう…ッ!?ずっと…一緒にいてくれるんでしょっ!?お願いだから…!…私から…っ、離れないでよ…!!』
颯斗の胸にしがみつき、涙を流すなまえ。颯斗はなまえの頭をゆっくり優しく撫でた。
「…はぁはぁ…また、逢おう、な…んで……出会ったら…ゼェ…また俺のもんにしてやる、よ…ハァハァ…!それまで、浮気しねぇで…待ってろ…!」
『ッヤダ!!颯斗がいなかったら私、浮気しちゃうよ!?…っだから…!浮気しないように側で見ててよ…!他の人が近寄ってこないように側にいてよ…!!守ってくれるんでしょ…ッ!?
私…!私…ッ……!颯斗がいないと……生きて、いけないのに……!』
なまえは大粒の涙を流しながら颯斗の死魄装をギュッと掴む。
周りにいる死神たちも唇を噛み締め、瞳に涙をためていた。礼はなまえと颯斗の姿を見ていられず、涙を流しながら視線を逸らした。
そんな彼女を見ていた壱葉は礼の顔を自身の胸に預けさせ、抱きしめる。礼は声を押し殺しながら涙をポロポロ零していた。
多季と彗も、颯斗の最後をしっかり見届けようとなまえと颯斗の元へほんの少し近づく。
「真子、に……お前のこと…頼む、って言われた…」
『…ぇ……?』
「あいつ人に臆病なっとんねん。あいつはずっと一人でおったから。あいつ自身も自分の力がわからんから尚更や…こんな自分が人と関わったらアカン思とんねん。
……寂しい思いしとると思うわ。…颯斗、あいつのことは任せたで」
「…ゼェ…ハァ…!真子の頼み、だったから…っ今まで以上に、お前の側にいるように…なってた…ハァ…けど…ハァ……いつのまにか…自分の為に…お前の、側にいた……」
『…颯斗…』
颯斗の死魄装を握り締め、ポタポタと涙を零すなまえ。
「…ハァ…ハァ…っ結婚、してねぇなァ……あーあ…心残り、ばっかだ…」
『なら…っ、結婚しようよ…っ!生きて…よ!…っく…ぅ…!最期みたいな言い方…!しないでよっ!!』
「……へへ……なァなまえ…ハァ…頼み、あんだよ…」
『なに…ッ!?』
なまえは嗚咽を漏らしながら颯斗に答えた。
「…ゼェ…っ…キス、してくんねェ…?」
なまえは涙で顔を歪ませながら颯斗に優しくキスをする。
「…ゼェ……へへっ…なまえが、人前で…こんなこと…すんの…珍し、な…」
『っく…何度でもしてあげるよ…ッ!だから…ッ!だから…ッ!!』
「ハァハァ……!最期の…胡麻豆腐、は…食えなか、…ッたけど………俺の最期が、なまえからのキス、で幸せだわ…」
力無くけれど優しく笑う颯斗。
それでも、なまえの止まることを知らない涙は
流れ続けていた。なまえの手を颯斗が握っていた力はフッとなくなり、なまえは颯斗の手を力強く掴む。
『……ぇ…颯斗…?颯斗…ッ!ヤッ!!ヤダよっ!?冗談やめてっ!ねぇ!!目、開けてよっ!!ねぇってば!!颯斗ッ!!!颯斗ーーッ!!!!』
あの日、多くの仲間と命よりも大事な愛しい者を失った。
それは私の力不足のせい。
だから私は背中の"零"を捨てた。
これが私の最期の過去の話。
私は前に進む覚悟を決めた。
もう二度と大事な仲間を失わない為に。