私は丁度、報告書を届け終えて執務室に戻っていたところだった。

今日の晩ご飯はどうしようかな…隊長、今日も食べに行く気かな…?あの人いつも外食だけどお金大丈夫なのかな?なんだかんだ言っていつもお会計済まされてるからなあ……

なんて考えていると後ろから男の人に声をかけられた。





「…みょうじさん」

『はい?』

「こんばんは、少しいいかな?」





私が振り返った先には五番隊の藍染副隊長がいた。そういえば……五番隊の隊長は真子くんだから、真子くんと一緒にいるのを見かけるから知ってるけど…いつもは挨拶程度で、こうして話しかけられたのはこれが初めてだなぁ……





『あ…こんばんは…何でしょう?』

「キミ、真央霊術院を半年で卒業したんだってね」

『え、ええ…』

「なら…市丸ギンを知ってるかい?」

『ええ…私と同じ時期に入隊した院生ですから…』





それがどうしたんだろうと首を傾げていると藍染副隊長は優しいいつもの笑顔を私に向ける。





「いや…君達みたいな優秀な部下をぜひ持ちたくてね」

『私…優秀じゃありません。それに…五番隊に入ったら真子くんに甘えてしまいそうで…』





すごく……優しそうな人に見えるんだけど……真子くんと藍染副隊長ってあんまり仲、良くないみたいなんだよね…
別に真子くんが藍染副隊長のこと避けてるわけでもないし冗談めかしく話してるのを見たこともある………だけど、何て言うか…





「ああ……キミは平子隊長と仲が良かったね」

『あの…』

「なんだい?」





聞いても……いいかな?





『…藍染副隊長は真子くんとあまり…仲が良くないんですか?』

「………どうして?」

『えっと…なんだか距離があるような気がして…』





この時気づけばよかった。
藍染の薄気味悪い笑顔に。

そしたら、あんなことにならなかったかもしれないのに…





「……そんなことないよ?隊長と副隊長は信頼し合ってこそ成り立つものだからね」

『…そう、ですよね……すいません、失礼なことを聞いてしまって…』

「いや…構わないよ」










『…真子くん…いる?』

「なんや、珍しいな…なまえから来んの。まあ入れや」





私は翌日の夜、真子くんと話をしに五番隊の執務室に訪れた。
なんだか昨日の藍染副隊長のことが気になって落ち着かなかったから…藍染副隊長はああ言ってるけど…真子くんはどう思ってるのか…少し気になった。
藍染副隊長が居ないのを見計らって私も少しの間仕事を抜け出してきた。





『ねえ、真子くん…』

「おー、なんや?」

『その…藍染副隊長のこと……どう思う?』

「……なんや、急に」

『…昨日、藍染副隊長に声をかけられたの』

「……!」





真子くんは私の言葉を聞いて目を見開いたみたいだったけど、その時の私は俯いていたから気付かなかった。





『なんていうか…いい人だとは思うんだけど…何を考えてるかわからないっていうか…なんだか怖くて……』

「…何て声かけられたんや」

『え?えっと…真央霊術院を半年で卒業して凄いって…"市丸ギン"を知ってるか、とか…?』

「(藍染の奴…なまえに近付いて何を企んどんねん…)
………ええか、なまえ。アイツにはあんま近付くな」

『え?なんで…』

「…お前は颯斗と一緒におればええんや」





な、なんでそこに隊長が出てくるのよ!





「お前らいい感じらしいやんけ」

『そんなんじゃないよ!真子くんのバカ!そんな話をしに来たんじゃないのに!もう帰る!』





ブゥ、と頬を膨らませて言うと真子くんはいつものように楽しそうに笑った。凄いなぁ…真子くんは……さっきまでの空気が嘘みたいに吹き飛んじゃうんだもん…





「…お前は…ずっと笑っとけ」

『え…?』

「なんもないわ……そろそろ帰った方がええんちゃうか?仕事抜け出しとるんやろ?」

『ん!ごめんね、遅くに…』

「かまへん…また来いや」

『うん!ありがとう!』





私は、隊舎に戻った。
十番隊の執務室について入ろうとしたら…隊長と女の声が聞こえてきた。





「あの…久瀬隊長…っ!私…隊長のことが好きです…!…付き合って頂けませんか!?」





あ…告白されてる……そういえば隊長モテるんだよね…





「あー…悪ィ…好きじゃねェ女とは付き合わねェ」





あ、断った…………あれ?……なんで……ホッとしてるの…?隊長がどんな人と付き合おうが私には関係ないことなのに…





「っ、じゃ…じゃあ!!抱いて下さいっ!!」

「は?」

「私を抱いて下さい…!それで諦めます…っ!」

「いやいや…抱いてって……意味わかってんの?」

「わかってます!!お願いします…!一度でいいですから…!」





忘れる為に一度抱け…?……この女(ヒト)は何を言ってるの…?

私はその場から去った。
走って。
…って…なんで私が逃げてるの…居心地悪いのは向こうのはずなのに…………もう…わけわかんない……



気付いたら凄く暗い道だった。





『(……あれ?……ここって十二番隊に近い場所、だよね…?)』





周りをキョロキョロ見渡しても誰もいない。否、いた……女の死神が数人。






「…みょうじさん?」

『…ぇっと……そうです、けど…』





なんだか私前より臆病になったかな…





「あ…良かった。間違えて後尾けてるかと思っちゃった」

『後を…?』

「久瀬隊長に随分可愛がってもらってますね?自分の地位利用して隊長に近付いてるんでしょう?そういうのやめてもらえません?隊長は皆に優しいんですから。
隊長と二度と食事に行ったりしないでください」

『……それは貴方達には関係のないことだと思う。久瀬隊長とのことをとやかく言われたくない』





私だって…隊長ともっと側にいたい。もっと話したい。

皆に優しいことなんてわかってる。
私だってそんなの見てるの辛いよ……だから精一杯、隊長の足でまといにならないように努力をして……………あ、そうか…

…私……





「……なら…体でわかってもらいますね」





……隊長のこと…好きなんだ……