『よい、しょっ…と……ミウ、お家着いたよ』
「ん…ぅ…」
「お帰り」
『ロー…仕事早く終わったの?』
「ああ…」
夕飯の買い出しの為、スーパーに行っていたなまえと彼女とローの愛娘であるミウ。
なまえの背中で眠そうに目をこするミウをつい先程帰宅したであろうスーツ姿のローが抱き上げた。
「…ぱ…ぱ」
「ああ…パパだ。いい子にしてたか?」
「…うん…、ぱぱ…」
「明日は休みだからどこか出かけような」
「…ほんとう…!?」
ミウの頭を優しく何度も撫でるローが言った言葉に愛娘は嬉しそうな笑顔を浮かべてその小さな腕でローの首回りにしがみつく。
小さな小さな愛娘を抱き締めながら、リビングへと歩いて行くローの後ろ姿をなまえはぼんやりと見つめ、ふぅ…と一つため息をついた。
『…ローも久しぶりにゆっくりできるんだし……美味しいご飯作ってあげなきゃ…!』
よし!と一人で意気込むなまえだが、その表情はどこか暗い。キッチンで料理をしている間ローはミウとお風呂に入り、食事の準備が整うとテーブルを挟んで向かい合ったローとなまえの間にミウを座らせた。
『はい、ミウ』
「…いや…」
『好き嫌いはダメだよ、ミウ』
「………」
『そんな顔してもだーめ』
「嫌いなものなんて誰にでもあるんだ…無理に食べさせなくていいだろ」
『…そうやってローはすぐにミウを甘やかすんだから…』
「その内食べるようになる。なぁ、ミウ」
「うん!」
『…………』
不満気な表情を浮かべるなまえの傍でミウが苦手とするにんじんを少しでも食べやすくと柔らかく、細かにしたものをミウのスプーンを使って食べてしまったロー。
なまえはそれ以上何も言うことはなく、いつも通り夕飯を済ませた。
『…ふぅ……』
「ミウ、寝たぞ」
『あ、ありがとうロー…ごめんね、疲れてるのに任せちゃって…』
「いや。明日ミウを遊園地に連れて行こうと思ってる」
『え…?明日?』
「ああ、ミウが行きたいって言っててな。お前も行くだろ?」
『……明日は……』
ローからの突然の提案に歯切れの悪いなまえが何か言いかけた時、ガチャリとリビングの扉が開く。
『ミウ…!どうしたの?』
「…パパ…!」
眠そうな目をこすりながらたどたどしい足取りでローの足に抱き着くミウを抱き上げたローは愛娘の頭を優しく撫でる。コテンとローの肩に頭を預けたミウはモゾモゾと動きながら弱々しくローの服を掴んだ。
「怖い夢でも見たのか?」
「…んーん…」
「一緒に寝ようか」
「うん…!」
「なまえ、先に寝室に行ってるから」
『……うん…わかった。ミウのことお願いね……、ミウお休み』
「おやすみなさい…」
『…………』
カチャリ…リビングの扉をゆっくり閉めたローと彼に抱き上げられているミウを見送ったなまえはハァ…と大きなため息をこぼしてテーブルに顔を伏せる。
『…ロー……明日…何の日か忘れちゃったの…?』
なまえの弱々しい声は静まり返ったリビングに虚しく響いた。
「…本当に行かないのか?」
『うん、ごめんね。少し用事があるから……ミウ、パパと楽しんで来てね』
「うん!!」
「…帰る頃に連絡いれる」
『わかった、気をつけてね』
「よし…ミウ行くぞ」
昨夜言っていた通り、ローとミウが遊園地に出掛けるのを見送ったなまえはリビングのソファーにゴロリと横になる。
『…つまらない意地張っちゃったかな……』
あーあ…と呟くなまえに答える者は誰もいない。シンと静まり返る室内に寂しくなり、溢れ出る涙を慌てて拭い取った。
ピンポーン…
『え……ローかな…?忘れ物?』
ローとミウが出掛けて数分しか経っていない為、何か忘れ物でもあったのかと慌てて玄関へ走るなまえ。ガチャリと施錠していた鍵を外して扉を開けると、そこには数ヶ月振りに会う友人がいた。
『…キッドくん!!』
「よう!久しぶりだな」
『本当!どうしたの?あ…ローに用事?』
「トラファルガーもだけど…なまえにもな」
『え?』
キッドの言葉に首を傾げるなまえの目の前に紙袋と花束が差し出される。キッドは照れ臭そうに笑いながらそれでも嬉しそうに声を上げた。
「お前ら今日で結婚4年目だろ?丁度仕事でこっちに用があってさっき終わったとこだからお祝いしてやろーと思ってよ!」
『……!!』
「それで…トラファルガーの野郎とミウは?」
『……っ』
「え!?お、おい!なまえ!!な、なに泣いてんだよ!?」
『き…キッドくん…っ、お、覚えて…く、くれてたんだ…!』
「おおお、お、落ち着けなまえ!な、泣くな!!頼むからっ」
突然ポロポロと涙を零し出したなまえにあわわわ…!と動揺するキッドはとにかくなまえを落ち着かせようと家に上がることに。
泣きながらもお客用のスリッパを出し、リビングへ案内したなまえは涙で視界を滲ませながらコーヒーを用意する。
「なまえ、おれがやるからお前座ってろ!」
『うっ…うう、ん…!いい"…!ちゃ…っんと…お、おもてっ、なし…ずるっ、から…!』
「…………」
大粒の涙をボロボロと流しながらコーヒーをいれるなまえにキッドがそれ以上何も言えるはずもなく、出されたコーヒーを飲みながらなまえが落ち着くのをひたすら待ち続けた。