『…エース』
「お、なまえ…おはよう」
深夜2時。
見張り台に上がってきたなまえはエースに声をかける。ニカッといつもの笑顔で挨拶を返したエース。
時間帯的に言えば"こんばんは"が正しいのだろうがエースは見張りの為に仮眠をとっていたので、"寝起きの挨拶"をしたのであろう。
なまえがエースの隣に座ると、撫でるような潮風を肌に感じる。
季節は秋。
海面に浮かんだこの一隻の船には季節と共に寒さを運んできていた。
『…少しずつ寒くなってきたね』
「ああ……でもオレは体が熱いからこの気温ならまだまだ余裕だぜ」
ヘヘッと笑うエースになまえは少し微笑んだ。
『…何か変わったことあった?』
「いんや?相変わらずの海だぜ」
『そっか…』
なまえとエースはただ無言で遠い水平線を見つめる。なまえは肌寒い気温と風に腕をさすり、火炎の能力を持つエースの体を羨ましそうに見ていた。
『(エースの体、あったかそう…)』
「…眠れなかったのか?」
『え?あ、うん……ちょっとね』
「夢見が悪いのか?」
『うーん…私、寒いのダメで…昨日まで凄く暖かかったのに急に寒くなったでしょ?だから、調子狂っちゃって…』
苦笑しながらなまえが言うと、エースは何かを思いつき、なまえに真剣な表情で振り向いた。
「…なまえ」
『ん?』
ギュッ
『え…エース…!?』
「……これなら寒くねェだろ?」
『う、うん…(寒くはないけど、心臓がもたないよ…っ!)』
なまえの心拍数がMAXに上がる中、なまえはあることに気付いた。
『(あれ……エース……もしかして…)緊張、してる…?』
「ッッ!!」
エースは顔を真っ赤にしてなまえを抱き締めながらも首を明後日の方向へ向けた。なまえはキョトンとした顔でエースの名を呼ぶ。
『…エース…?』
「…わ、悪ィかよ…好きな女と密着してんのに緊張するなっつー方がムリだろ…!」
『好きな女!?』
恥ずかしそうに呟くエースになまえはただ大きく目を見開いた。好きな女と密着。現在エースと密着しているのはなまえ。密着しているのが好きな女。その女とはなまえのことということになる。
なまえは頭の中が真っ白になり、それ以上何も言えなくってしまった。沈黙が流れる中、エースが恐る恐る声を漏らす。
「……お、…お前はその、どうなんだよ…」
『へっ!?』
急なエースの告白にショート寸前ななまえの脳内。
ジィッと見つめてくる頬の赤いエースになまえはゴクッと喉を鳴らし、勇気を振り絞って言葉を発した。
『わ、私も……エースが好、きっ!』
最後まで言い終える前にエースはなまえにキスをした。突然の告白やら突然のキスやらでもう何がなんだかわからない状態のなまえ。
『……エース…』
「…わり……その、我慢、できなかった…もう十分すぎるぐらい我慢したんだから許してくれ…」
「え…?どういう…?」
ポカン、としているなまえにエースは彼女と初めて出会った日のことを話した。
「エース、今度新しくオレ達の家族になったなまえだよぃ」
「あ?」
甲板で寝転がっていたエースにマルコが声をかけると、エースはマルコの方へ視線を向ける。マルコの隣にいたのは薄めの黄色のワンピースに麦わら帽子をかぶった少女がいた。年はエースより少し下といったところだろう。
『…はじめましてなまえです…これからよろしくお願いします』
エースと目が合ったなまえはにっこりと笑顔を見せてエースに初めて挨拶を交わす。
ナースならいるが戦闘員で女性はあまりいない。特にこんな可愛らしい女の子はこの舟ではいないのだ。清楚っぽくて柔らかい雰囲気を持ったなまえを見つめたまま、エースは何も言えずにただ口をポカンと開けている。
『……え、っと…どうかしましたか?』
「……え?あっ、いやっ、なんでもねえっ!」
「(…エースの奴、なまえに惚れたな?)」
エースの一目惚れに気付いたマルコはニヤッと笑みを見せた。パニックになりながらも何でもねェ、こちらこそよろしくと言うエースになまえはまた笑う。
「わかりやすい奴だねぃ…」
弟のようなエースが初めてかはわからないが恋をした。これから楽しくなりそうだな…とマルコは思っていたのだった。
(あの時から好きだったの!?)(ああ…)(じ、実は私も…なの)(え!?)
(だ、だからあの時返事なかなかしてくれなかったからちょっとショックだったんだけど…)(いや、あれは、その!お前に見惚れてってゆーか…)(え…)(あっ、や…違…わくもないけど…その…)
(ふふ…エースったら……ありがとう)(…お、おう…)
(なんだか、恥ずかしいのと嬉しいのといろいろあって全然寒くなくなっちゃった!)(…俺としては寒い方がなまえにくっついてられるんだが…)(エース……寒くないけど、落ち着くからぎゅってして?)(…おう!)
(……初々しいねぃ…)
たまたま通りかかったマルコはやっと気持ちが通じ合って幸せそうに笑う2人を遠目で見ながら、エース達と同じように幸せそうに口角を上げた。