「「「かんぱーい」」」

「そして卒業おめでとう、おれ!」

「いや、おれらもだから」

「いやいや、おれ以外余裕だっただろ」

「あー、うん…」

「エース、ほんとにギリギリだったもんね〜」

「卒業できたのはみちるのお陰だーチューしよ」

「はいはい、後でね〜」





なんだこの状況。

いや、まあこの状況を説明すれば、今日おれたちは卒業できるかどうかがかかったテストの発表日だった。
おれとなまえとミッチーは余裕で単位取れてたんだが、問題はエース。こいつはほんっとギリギリの単位だった。
なんでこんなにギリギリだったのか…言わずともわかるだろうが大学生になった途端、浮かれまくったこいつは遊びに遊びまくって学校には行っても脳みそに講義の中身を取り入れることはなかったからだ。
そんなおれの兄弟がちゃんと単位を取得して卒業できたので喜び勇んだのをきっかけに急遽、プチ卒業祝いが行われている。

そしてこの場にいないおれの愛しい彼女は夕方までアルバイトに行っていて…さっきラインでバイトが終わったって言ってたから直に来るんだろうが….
とにかく、早く来てくれなまえ。
この空間におれは耐えられそうにねェ。





「なまえちゃんバイト終わった?」

「おー。なまえ来たら飲み放題に変更するか」

「いいな」

「エース、飲みすぎだめだよ」

「今日は卒業祝いだからいーじゃん」

「もう…酔っ払ったエースの面倒見るの大変なんだからねぇ…」

「えー、ナニの話〜?」

「ばかっ」





下世話だ。ほんとこいつ下世話だ。
ミッチー、もっと怒っていいからまじで。なまえの前で今のような発言したらこいつまじで殴る。





「ミッチーってさ、エースといつから知り合いだったんだ?」

「えっと…確か3年生の夏ぐらいかな…」

「慣れ初めは?」

「講義が一緒だったんだよ」

「ヘェ…」

「ほら、心理学受けてただろ?おれら」

「ああ、あの講義か。じゃあおれのことも見かけたことあんの?」

「もっちろん!サボくんはエースの次にチェックしてたよ〜」

「チェック?なんで?」

「そりゃあ、なまえの想い人だったわけだし…」

「ゴフッ…ゲホ…!」

「うわっ、サボまじで最近器官弱ってねェか!?どんだけむせんだよっ」

「わ、悪ィ…ゲホゴホ…」

「すいませーん、おしぼり下さ〜い!」





え、ちょっ、待ってくれ。

衝撃的な発言にむせたことで慌てて引っつかんだおしぼりを口に当てるおれに自分のおしぼりを差し出してくれたエースと、素早く店員さんにおしぼりを頼んでくれたミッチー。2人ともサンキュー。





「…3年の時、なまえっておれのこと知ってたの?」

「そうだよ〜、なんかね、目立つサボくんを見かける内に気になるようになったんだって」





へ、へぇ……
あの告白の日、確かになまえはおれのことをもっと前から知っていたと言った。だけどまさか1年以上も前から知っていたなんて…なまえとそんな話はしねェからちょっと…いやかなりビックリだ。そして悪い気は微塵もしない。
いや、待て。おれ変なこととかしてなかったかな…
あんまり大学の女の子とは付き合ったりヤッたりはして………ないこともなかった。
うわ、あの頃のおれ全力でブン殴りてェ…!!





「なまえちゃんがお前のこと好きになったきっかけ聞いた?」

「え、聞いてない。何それそんなんあんの?」

「そりゃあるだろ。お前だって講義でなまえちゃんが隣の席に座ったのがきっかけで恋に落ちたんだから」





まあ、そりゃそうか。
つーかエース、ミッチー前にして何さらっと言っちゃってんの。恥ずかしいだろが。ミッチーニヤニヤしてるだろうが。





「隣かぁ〜、ほんと、似た者同士だね」

「どういうことだ?」

「なまえちゃんがお前のこと好きになったの、心理学の講義でお前が前に座ったからなんだよ」

「は……」





口にしようとしていたししゃもがポロっと落ちる。それを慌てて拾って灰皿へと運んでから脳内を落ち着かせようとビールを半分程飲む。

え、心理学?3年の時の?え、なまえも受けてたのか?





「…悪ィ、1から順を追って説明してくれ」





断片的過ぎてどこをどうくっつければいいのか全くわかんねェ





「私がね、心理学の講義の日に風邪で休んだの。それで、たまたまなまえの講義が休講だったからなまえが代わりに講義受けてくれたの。その時座った前の席にサボくんが座ったんだって」

「で、お前がなまえちゃんが落としたプリント拾って"字が綺麗だな"って言ったんだってさ」

「え…おれが!?」

「そっ!その時のサボくんの笑顔になまえのハートは射止められたのでした〜」





恋の始まり〜と言うミッチーとぱちぱちと拍手をする目の前のバカップル。

え、全ッ然記憶ねェんだけどっ!
え、そんなことあったか!?
いや、わかんねェよっ!いつだよ!?いつの話だっ





「エースとは講義が一緒っていうだけで他に接点なかったんだけど…4年生になって偶然会社説明会が一緒で仲良くなったんだ〜」

「んで、飲み行くかってなってどうせなら何人かで飲もうぜってなったんだよな」

「あの時誘ってくれて嬉しかったけどどうせなら2人がよかったな〜」

「まーそういうなよ〜合コン、楽しかったじゃん」





おい、話が脱線してんぞ。
いきなりお前らの話にすり替えんな。

合コン……合コンってアレか。
おれも行くはずだったけどすっかり忘れててバイトで行けなかった合コンか?





「……なんでなまえ呼んだわけ?」

「なまえって、奥手だから学部も違うサボくんと接点持つには合コンしかないかなって。だからエースにも協力してもらってサボくんとなまえを会わせようとしてたの」





サボくん、バイトだったけどねーとぼやいたミッチーはカシオレが入ったコリンズグラスを傾ける。





「あん時のなまえちゃんの落ち込みようハンパじゃなかったよな」

「うんうん、泣きそうな顔してたよね」

「な…!」

「けど、おれと一緒に来てた男たちはなまえちゃんに興味津々だったけどなー」

「え、」

「なまえって人見知りするからすっごくあたふたしてたよねー」

「ちょ…」

「そのなまえちゃんの合コン慣れしてないウブな感じがまた人気だったんだけどよー」

「はっ!!?」





待てオイコラ!勝手にサクサク話進めんな!!
テンパってるおれの頭は冷静じゃねェんだよ!
1つずつ消化させろっ!





「待ってくれ…………、なまえ…まじでモテてた…?」

「「皆狙ってた」」

「お持ち帰りされそうになった時は本当にびっくりしたよ」





お持ち帰り!!?な、ちょっ!それマジでダメなやつッ





「そこはおれが阻止しといたけどなー」

「よくやったエース!」

「けどあの時エースべろべろに酔っててちゃっかりなまえの肩に腕回して密着してたよね〜妬いちゃったよー」

「表出ろエースッッ!!」





阻止するのにわざわざ密着する必要があるか!?ないねッ!
空きジョッキをゴンッ!とテーブルに置いてエースを睨み付ければエースはそんな些細な過去の話は忘れようぜ、とヘラヘラ笑いだす。





「いや、お前ェは一回まじで絞めるッ!下ネタ連発しすぎなんだよっ!」

「それ今関係ないだろっ!?」

「あ、なまえのこと可愛いめっちゃ可愛いってベタ褒めしてたよね」

「みちるさんっ!?何!怒ってんのか!?どこでみちるの怒りスイッチ入ったわけ!?」

「殺す!」

「待て待てサボッ」

「あはっ、なんか、思い出したらちょっと嫌な気分になっちゃって〜」

「みちるその笑顔ちょー怖ェんだけど!サボまじギブギブギブッ!!」

『お待たせっ、ごめんね!待った?』





向かいの席に座るエースにヘッドロックをするおれの腕をバシバシ叩いて降参の合図を出すが、離してやるつもりはねェ。
エースお前なにおれのなまえにベタベタしてんだこの野郎と本気で絞めにかかった時、おれの愛しい恋人の声が聞こえた。





「なまえお疲れ〜」

『みっちゃん、まだ1杯目?』

「そだよー。話に盛り上がっちゃって」

『話?なんの…?』

「なまえちゃんまじナイス!けどもう5分…いや3分早く来てほしかった!」

『え?』





なまえが現れたことで自然にエースを解放していたおれ。
頭を押さえながら涙目で訴えかけるとなまえは何の話…?と首を傾げる。
そりゃそーなるわ。
キョトンとするなまえの手を引いておれの隣に座らせた。





「なまえ」

『どうしたの?』

「紙とペンはあるか?」

『え…?えっと……うん、あるよ」





何が何だかわからないなりに鞄から取り出したスケジュール帳のメモを千切って一緒に挟んでいたペンをおれへ渡そうとするなまえにおれとなまえの名前を書いてみて。と頼む。
不思議そうにしながらも彼女はそれに素直に頷いて…名前を綴った。





『えっと…これでいい、のかな?』





ああ…ほんとだ。
3年の時、おれはなまえと初めて話したのを覚えてない。だけど、なんつーか……この字は確かにどこか懐かしく感じた。





『さ…「……だな…」え?』





大きな丸い目をパチパチさせるなまえ。
おれは隣に座っておれを見つめるなまえの頭をクシャッと撫でる。





「字、綺麗だな!」

『っっ、!!!』





狙ったわけじゃねェ。
ほんとに思ったんだ。
3年のおれはなまえの存在に気付かなかったけど、やっぱりおれはおれだった。
なまえの字は、あの時も今も、おれの目を止めて綺麗だって言葉が自然と出てきた。





「…エース、お前を絞めるのは明日にする」

「よかっ…いや、よくねェ!なんでだよっ」

「お前はとりあえず1回絞めといた方がいいと思う」

「なまえ何飲む〜?」

『あ、えっと…カシオレで』

「すいませーん!飲み放題で生2つとカシオレ2つで〜」





ミッチーが全員分の飲み物を頼んで仕切り直し。
目の前の料理に箸を伸ばしたおれにどうしていきなり字の話…?と恥ずかしそうに尋ねるなまえにたまらない愛しさからこぼれる笑みを浮かべてなんとなく!とおれは笑った。
せっかくだし、この話は改めて2人っきりの時に話そう。
じゃねーと4人で飲み始めた今の時間を壊してでもおれはなまえと2人っきりで居たいと欲が出てしまう。





「気を取り直して…「「『かんぱーい』」」」










とりあえず今日は帰さないけどな。





そんなことよりなまえ、心理学の講義でおれのこと好きになったってほんとか。
えっ!!みっちゃん話したのっ!?
ごめーん。だってサボくん気になってたみたいだしー
恥ずかしい…
なまえちゃんのこと好きになってからのサボの話聞く?超面白ェぞ
え、
エースてめっ、
聞きたいっ
なまえちゃんが初めて声かけた日にさー
なまえっ、その話はまた今度だ!
えーつまんねェの