『サンジくん好きな人いるの?だったら、私協力するよっ!!』





そう、彼女に言われたのは中学2年生の春頃だった。
クラス替えで同じクラスになった彼女は女の子が大好きだと自負しているおれの意中の子だった。
だが、残念なことに彼女は見事なまでの勘違いと真っ直ぐすぎる性格が合わさって軌道修正しようにも全くできないところまで来てしまった。





『サンジくーーーん!』

「お疲れ、なまえちゃん」

『ね、ね!リカちゃん、優しくて背が高くて料理上手な人が好きなんだって!!』





サンジくんのことなんじゃないかなあ!?
そう言って笑顔を見せるのは中学1年生の時に初めて出会った時のままのなまえちゃん。
おれが女の子に誰にでも優しいのを知っている彼女は度々仲良くなった女の子とおれをくっつけようとする。
その献身的な姿は正直可愛くて堪らないのだが、おれの好きな人で尽くしたい人はキミなんだよ。
という気持ちを言えずにあれからとうとう6年目に突入してしまった。





「そうかなぁ…でもリカちゃんって最近彼氏と別れたばかりじゃなかったっけ?」

『そうなんだけどね、リカちゃんと話してたら新たな事実がわかったんだよっ』

「新たな事実って何?」

『リカちゃん、好きな人ができたから前の彼氏さんと別れたんだって!』

「そ、そうなんだ」





それがおれのことかどうかは定かではないが、去年同じクラスだったリカちゃんと割と仲が良かったのは事実でもある。
それを勘違いしてなまえちゃんはおれがリカちゃんを好き、という結論を導き出したわけなんだけど……





『だからね、サンジくんにラッキーチャンスが巡ってきたんだよっ!』





良かったね!頑張って!私応援してるからっ
そう言ってガッツポーズをとるなまえちゃん。
おれもさっさと告白しちまえばいいじゃないか。とは何度も思った。
だけど、事ある毎におれを応援して誰かとくっつけようとするなまえちゃんにとってはきっとおれはただの友人止まりで。
フラれて話せない関係になるよりも、今のこの状況のように身近にいる状態におれは甘んじている。
ヘタレだなァ…と我ながら本当に情けなくて前髪をかきあげた。





「そういえばなまえちゃんは好きな人できたの?」

『え、私?私はいいの!』

「どうして?」

「サンジくんが幸せになるまで私は恋愛しないの!」





昔、何でそこまでおれのことを応援してくれるの?と聞いたことがある。その時彼女は

私男の人にこんなに優しくされたの初めてなんだ。だから、私が大好きな優しいサンジくんが幸せになってくれることが私の一番幸せだからっ

と言っていた。
…おれの幸せはなまえちゃんがおれのことを好きになってくれることだけどね。
けど、やっぱり一番の幸せはなまえちゃんがいつまでも笑っていてくれることなんだよなぁ…





「なまえちゃん、今週末空いてる?」

『日曜日は空いてるよ!どうして?』

「料理、一緒にしない?いつもフレンチとイタリアンだからさ、たまには和食も作ってみたいなと思って」

『いいの?私サンジくんの料理大好き!』

「そう言ってもらえると嬉しいよ」





彼女の緩んだ頬を見て思わずおれの頬も緩んでしまった。こうしていつまでもおれの隣で笑っていてほしいなと彼女の笑顔を見るたびに思うおれの恋心はいつ実るのだろうか。





「デザートも用意するよ」

『和食の?』

「和菓子はちょっと時間かかるからなぁ…なまえちゃん、何か食べたいものある?」

『んー……、サンジくんが作るものってなんでも美味しいから迷っちゃうな…』

「じゃあ、おれに任せてくれる?」

『うん、お願いしますっ』





楽しみだね、そうだね、そんな話をしながらおれたちは夕陽が差し掛かってきた放課後の帰り道を歩いた。