「キッドの頭アレを…」
「ん?見た顔だな…」
そして同じくヒューマンショップへ入ってきたのはキッド海賊団。
一般人とは明らかに違う海賊としての威圧感を放つローたちに目が行く。
「"北の海"の2億の賞金首トラファルガー・ローだ…ずいぶん悪ィ噂を聞いてる」
キッドの視線に気付いたのか、ローはキッドの方を向いて口角を上げると挨拶だといわんばかりに中指を立てた。
「…………行儀も悪ィな…」
ローの挑発に意味深な笑みを浮かべるキッドは彼の隣で会場内を見渡している見知った女の姿を見て目を見開く。
「あいつ……まさか……」
「ねぇスティン、ちょっと暑くない?」
『この人混みだしね……何か飲み物買ってくればよかったね』
「やっぱり……あいつ……!!」
ベポが話しかけたことで後ろを振り返ったスティン。
その横顔にスティンと確信したキッドを見たローは薄く笑みを浮かべ、見せつけるかのようにスティンの肩に腕を回した。
「チッ……!まさかトラファルガーのクルーだとはな…あいつと会ったら無理やりにでも奪おうと思ってたが…一筋縄じゃいかねェようだな…」
『……ロー、何で笑ってるの?』
「…おれのモンだと思い知らせてやろうと思ってな」
『何が?』
「お前が」
『誰に?』
「全員に」
『………』
ローの意図がわからないスティンは首を傾げる。時間が訪れ、始まったオークション。司会者らしき男が出て来て何やら説明を始めると最初に男が競りに出された。競売参加者は値を張り合い、最高金額に達すると商品である人々は次々と買われていく。
それを何の興味もなさそうに見つめていたスティンは何気なしに呟いた。
『……買う人間と買われる人間…同じ人間なのに……どこが違うのかな…』
「…テメェの運だろう。おれたちがこの海で生きるも死ぬも運命……それだけのモンだったってことだ」
『……………。…ねぇ、ロー……?』
「なんだ」
『私がもし……売られてたらどうする…?』
「買ってやる」
まっすぐステージを見据えるローの横顔をスティンは見上げ、ローはそんな彼女の視線と交わるようにスティンに視線だけをやる。
「何億だろうがお前を他の人間に渡す気はねェ」
『ロー…』
スティンは自身の肩に回されたローの手をとり、キュ…、と彼の指先だけを握った。
『私とあの人たち……ローがいうようにこれが運命だったとしても……何が違うんだろうね……。もしかしたらあそこに立ってるのが私かもしれないのに……私はここで眺めてる……世界は……いつまでたっても不平等だね……』
「………そうだな」
『………』
意味深な彼女の意図を受け止めたロー。思い出したくもないドフラミンゴのことをほのめかす言葉にスティンだけでなくローの気持ちも少なからず乱れている。
世界貴族の人間がまた一人現れ、スティンはそれを無言で見つめていると、今日の目玉商品らしい人魚の女の子が出てきた。
『…あんな女の子まで……』
スティンは世界の汚さを目の当たりにし、このようなオークションを公認している世界政府に何が正義だ、と嫌気がさす。
「5億で買うえ〜〜!!!5億Bィ〜〜〜〜〜!!!」
「人魚に5億か…大層な貴族だ…」
ローがフッと笑いながら呟くと、突然何かが会場に突っ込んだ。
「ああああああああ!!!」
『え………、何?』
「アレは……"麦わら屋"か」
『え…!?あれが麦わらのルフィ……?』
スティンが驚きながらルフィ達を見ている中、ルフィの仲間であるゾロとサンジの姿を探す。そんな中でルフィはステージにいる人魚に向かって走り出した。
「きゃああ〜〜〜〜〜〜!!!魚人よ〜〜〜!!!気持ち悪い〜〜〜〜!!!」
「何!?魚人!?」
辺りはたこの魚人を見て悲鳴を上げる。シャチがそれを不思議そうに見ながらローを挟んだ先に座るスティンに声をかけた。
「なァ……なんであいつらあんな騒いでんの?」
『…この島では魚人族と人魚族は差別を受けているの』
「なんで?」
『さあ………自分たちが一番偉いと思ってるんでしょうね』
肩を竦め、バカバカしいといった口調のスティン。スティンが言い終えた瞬間、一発の銃声音が会場内に響き渡る。
「『!!?』」
「きゃああああああ!!!」
「むふふふ、むふーん、むふーん♪当たったえ〜〜っ!!魚人を仕留めたえ〜〜っ!!」
「は〜〜〜あ…撃たれてよかったわ。近づいて何か病気でもうつされたら大変だもの」
「何か企んでたに違いない。所詮、脳は魚だろう」
天竜人のチャルロスがたこの魚人に発砲したのだ。撃った張本人であるチャルロスは嬉しそうに両手を上げ、ご機嫌の様子。そんな光景にひそひそと話す客の声がスティンたちの耳に入る。
『………あのブチャロス…』
「なんだよ、スティン…あいつのこと知ってんのか?」
『んー……まあ、ちょっと仕事で護衛についた時求婚されたんだけど元帥たちのおかげでなんとか結婚せずに済んだの』
「ゲェ!?マジかよ!!」
『政府お抱えの世界貴族だから少しでも傷つけたら大将が軍艦引っ張ってくるんだけど……私を妻として迎え入れるか世界政府の保護を取り消すか…って。
まあ、そんなの不可能なんだけど一応言うだけ言ってみたら引き下がってくれたの』
「本当大層な奴らだな」
『ねー。自分たちじゃなーんにもできないくせに……』
あいつの気持ち悪い顔を思い出しただけで吐き気がするよ。
スティンがそう呟いた直後、チャルロスは怒りを露わにしたルフィに見事に殴り飛ばされた。