エースが15歳でスティンが14歳、ルフィが12歳になった年のとある日のとある時間。

エースはいつものように泥だらけの顔ではなく、いつもの泥だらけの服でもなく、いつも持っている武器さえ持たず、いつもとまったく違う雰囲気だった。





「よし!!」

「エ〜〜ス〜〜〜ッ!」





勢いよく飛び込んできたルフィを容赦なく背負い投げして川に落としたエース。





「何すんだよォ!」

「お前こそ何飛び付こうとしてんだ」

「ヘヘッ」

「"ヘヘッ"じゃねェよ!!」





エースは川に落ちたルフィをビシッと指差しながら鋭いツッコミをいれる。





「ん?」





ルフィはいつもと何かが違うエースに首を傾げた。





「……なんか、今日のエースいつもと違うな」

「さすがのお前も気付いたか」

「髪の毛でも切ったのか?」

「1ミリも切ってねェ」

「でもなーんか違うんだよなァ……あ!!」

「フン…やっと気付いたか。まあ、見ればすぐにわかることだがな」

「今朝俺の肉食っただろ!!」

「食ってねェし、お前の肉食ったって見た目は変わらねェよっ」





カッと怒鳴るエースにルフィは口を尖らせる。





「じゃあどこが違うんだよー」

「わっかんねェのかよ!」

「わっかんねーよ!」

「服だよ!靴も!綺麗だろ!!顔も体も汚れてねェ!」

「なんだそんなことか」

「気付かなかった奴が偉そうに言うなッ!!」





エースは大声でルフィに突っ込んでいたせいかゼェハァ、と呼吸が荒くなった。





「なにコーフンしてんだ?」

「お前のせいだッ」

「その服と靴、なんで新しいんだ?」

「……こないだ、ジジイに頼んだんだよ」





エースはフウッとため息をついて落ち着いた口調で話す。





「えー、いいなァ……俺も新しい服と靴欲しいー」

「お前、ジジイが来る度になんか貰ってるじゃねぇか」

「エースが着てるやつがいい」

「お前、俺から服を取り上げる気か?」





エースは、はあっと盛大なため息をついてから手で軽く髪を整えた。





「んじゃ俺行くから」

「どこに?」

「お前には関係ねェ」

「教えてくれよ!」

「うっせー、ついてくんな!!」





駆け出すエース。その後をしつこくルフィは追いかけていく。





「ゼェ…ゼェ…ゼェ…ゼェ……」

『あ、エース………なんで息切らしてるの…?』





エースはルフィを撒くために目的地をかなり遠回りして危険な場所を通ったり、わざと猛獣をけしかけたりしたが、ルフィも死に物狂いで着いてきた。それでもどうにかこうにかルフィを撒くことに成功。
だが、エース自身そのせいでかなり疲労困憊気味。





「あ、ああ……ち、ちょっと…邪魔、が…ゼェ……入って…ハァ……な…ゲホゲホッ…」

『そう……大丈夫?』





エースの背中を優しくさするスティン。エースは頬を赤く染めながら照れ臭そうに顔を腕で隠す。





『あーあ……じいちゃんにせっかく買ってもらった服と靴……汚れちゃったね』

「あ……」





スティンが言うようにエースの服と靴には泥や砂がついていてとても綺麗とはいえない。それにあからさまにがっかりし、肩を落としたエース。





「ハァ………」

『どうかした?』

「…いや……」

『でも……なんだかこの方がエースらしいね』

「え?」





ショックからうな垂れていたエースがスティンを見上げると、彼女はにこっと笑った。





『普段からエースはかっこいいから服が汚れたって大丈夫だよ』

「………ッ!」

『それで、2人で話したいことってなに?』





エースは生唾を飲み込み、背筋をピンッと伸ばす。そして、真っ直ぐ真剣な瞳でスティンを見つめた。





「……スティン…俺には、何にもねェ。金も、地位も、財産も……何も持ってない。持ってるとすりゃあ…世間から憎まれる海賊王の血ぐらいだ」

『…………』

「お前も俺と一緒にいることで、何度も危険な目に合わせちまった。…何度も…傷つけた」





エースは申し訳なさそうに頭を下げる。それにスティンは目を見開いて驚く。





「…悪かった…」

『そんな…やめて、エース!私、エースと一緒にいるの嫌じゃないし、むしろ一緒にいたい!!』





エースの肩を持って、頭を上げさせようとするが頭が上がる気配はない。その代わりにエースがスティンの腕を掴んだ。





『!』

「…憎まれ者の俺だが……どんな奴からも、どんな物からもお前を守れる男になってみせる!!俺の人生を、俺自身を全部やる!!だから…だから……ッ、俺と、付き合ってくれ!!!」

『…え……?』





エースの突然の告白にスティンは目を見開く。耳まで真っ赤にするエース。本気だと感じさせる震えた体。

スティンは驚いている気持ちを落ち着かせる為に手を交差させる。





『……私、と……?』

「スティンが好きだ。この世界で一番好きだ。
…誰よりも、どんな野郎よりもお前のことを愛し抜く自信がある!!おれはこの先ずっとお前と一緒にいたい!……スティンしか、見えない…!必ず…必ず幸せにする…!」

『…エース……』





スティンはエースの言葉が嬉しくて嬉しくて涙が流れ出た。





「お、おい……なんで泣くんだよ…そ、そんなに嫌だったか……?」

『違う……違うよ…!嬉しい、の…』

「え……?」

『私も、エースが好き』

「スティン……!!!」





エースは思わずスティンを抱きしめる。
強く、強く、抱きしめる。





『エース…約束して。私から離れない、ずっと一緒にいるって』

「約束する…!絶対離れねェ!絶対、ずっと一緒にいる。死ぬまで…死んでも……お前だけを愛し続ける!!」

『……ありがとう…』





スティンはエースの背中に手を回し、自分もキツく抱き締め返した。















全てを捧げた恋だった。





(ずっと好きだったんだ)(何年も、何年も)
(どれだけ諦めようとしても諦めることなんてできなかった)
(きっと俺は)(スティンを愛すために)(生まれてきたんだ)





2人は生まれて初めてキスをして、生まれて初めてできた大好きな恋人と、生まれて初めて手を繋いで家に帰った。





(あー!エースとスティン手つないでる!)(うっせー!!)(おれもつなぎてェ!!)(ダメだ!!!)(なんでだよ!!)(ダメなもんはダメだ!!)





2人の関係をルフィが理解するのはもう少し先のお話…