ゾロたちはナミの言葉通り戦う者たちを攻撃するのではなく、止めている。





『ビビ、絶対止めるからね!戦争なんて悲しいものこの国に必要ないでしょ?こんな無意味な争い、さっさと終わらせよう!』





スティンはビビの肩に少し触れて時計台から飛び降り、戦い続ける人々を止めに向かった。ビビは瞳に涙をいっぱい溜め、口元を手で覆う。





「スティン、さん…ッ!!」





クロコダイルを地下から吹き飛ばしたルフィ。それでも戦争の勢いは止まらない。





「戦いを…!!!!やめて下さい!!!!」





ビビの精一杯の声は人々に届いたわけではなかったが、天に届いた。戦争のきっかけになった、ここにいる人々が必死に求めていた"雨"が降り注いだのだ。





『…雨…』





求め続けた雨が降り出したことにより、ようやく戦いをやめた人々。スティンはゾロたちと合流し、広場から少し離れた一角で傷だらけのルフィを背負った国王と遭遇。ビビも時計台から降りてきており、少し話した後広場へと向かわせる。





『行ってきなよ、王女様』





スティンが手を振りながら笑ってビビを見送ると、一味はほぼ同時に気を失ってその場に倒れ込んだ。





『ふふ…限界なんてとっくに超えてるのに無理しちゃって……』





くすくす笑いながらスティンもその場に座り込む。一味が気を失ってから数分後、海兵が現れたことに気付いたスティンはやれやれ…と呟きながら立ち上がる。





「お前は…!マリーネ・スティン!」

『……悪いけど今、彼らに手を出すなら容赦しない』

「貴様も含めて麦わら一味、全て捕らえる!!」





銃を構えて言う海兵にスティンは





『やれるものならやってみなさい…』





と言って殺気を出した。その表情はいつも明るい笑顔のスティンではなく"海賊"としてのスティンの表情。





「ひ……っ」

「やめなさい!!」

「そ、曹長!!」





スティンの殺気に息を呑む海兵たちの後ろからたしぎが現れる。





「今、この一味に手を出すことは私が許しません!!!」

『…私もそれが正しいと思う。私だって無駄な争いはしたくないしね』

「…っ」





自分で言い出したことでもスティンに改めて言われれば悔しさが増したのか、たしぎは厳しい顔つきのまま海兵たちを連れてスティンたちの傍を離れた。





『(そりゃ悔しいわよね…クロコダイルの陰謀を阻止したのは海賊であるルフィたち…そして海賊を捕らえる絶好のチャンスをみすみす逃すきっかけを作ったのは王下七武海を携えているあなた達海軍…あの子、曹長だっけ……いい目をしてた…アレはまだまだ伸びる逸材ね……)』





たしぎの表情を見たスティンはフッと笑みをこぼし、再びその場へ座り込んだ。










***





『よーし、準備万端!!』





被害は出たもののクロコダイルの陰謀だと知った人々は戦争を無事に終わらすことができ、国王を信じて一からやり直すという志を持ち、平和を取り戻すことができた。
戦争終結の翌日の昼過ぎ。荷造りを済ませたスティンはアラバスタを去ろうとしていた。





「スティンさん…」

『あ、ビビ…おはよ』

「……もう、行ってしまうの?」





寂しそうに尋ねてきたビビにスティンは軽く頭をかいてから迷うことなくはっきりと答える。





『言ったでしょ?私は"偶然ここにいる"の。本来、アラバスタを救うことは全く目的の中に入ってなかったし……ルフィの手助けをする、って言ったから結果この国を助けることになったかもしれないけど…
私はもともと"麦わら海賊団"とは仲間ではないからね。私にできることをしたまでよ』





バックを背負い、欠伸をこぼしながらぐーっと伸びをするスティン。





「それでも…あなたに助けられたのは事実よ…ありがとう…!」

『………』





スティンはビビにお礼を言われ、恥ずかしいようなくすぐったいような気持ちになり、頬を少しかく。そして、んー…と声にならない声を漏らしながら腕を組んだ。





『…こういう時って何て言うのがいいんだろ…』

「え?」

『…あ、そうそう…"どういたしまして"だ』





歯を見せて笑うスティンにビビもつられて満面の笑顔をみせる。





『でも、私も感謝してるよ?ご飯いっぱい頂いちゃったし必要なもの揃えてくれたし…』

「ふふ…私も私にできることをしたまでよ」





ビビに先程言った言葉をそっくりそのまま返されたスティンは一瞬呆けた顔になるが、すぐに笑った。





『…じゃあ、行くよ。またね』

「……ええ!!」





スティンの"またね"という言葉にビビは深く頷き、握手を交わした彼女は王宮を出る。大きな扉を過ぎた時、階段の手前にもたれかかっているゾロと遭遇した。





『あれ…もう動いて大丈夫なの?』

「……ああ」





治療を受けたゾロは包帯ぐるぐる巻きのミイラ男状態。顔にはあまり包帯を巻かれていないが。





『どうかした?』

「……礼を、言っておこうと思ってな」

『礼?』





スティンが小首を傾げると、ゾロは軽く頭を下げる。





「…お前の処置のおかげで傷が浅く済んだらしい…本来一味と何ら関係のない、お前の今回の手助けも感謝してる」

『……気にしなくていいよ。私に出来ることをしただけだから。ルフィの仲間に死なれるのも嫌だしね』

「………ルフィに会っていかねェのか?」

『うん。あの様子だと後2、3日は目を覚ましそうにないし私もそろそろエースに会いたいから』





スティンの言葉にゾロは少し残念そうな顔をするが、スティンの目の前に右手を差し出した。





「お前が"白ひげ"のクルーじゃなかったらウチのクルーになってほしかったぜ…」

『ふふ…嬉しいこと言ってくれるね。またどこかで会いましょ。次に会う時はもっと成長してることを期待してるよ』

「…当たり前ェだ!」





ゾロの手を強く握り返したスティン。交わされた握手を解き、スティンは手を振りながら階段を下りていく。





『皆によろしくねー!!』





ゾロにそれだけ言い残し、スティンはアラバスタから去って行った。