その日、ハートの海賊船の一室で男たちの寂しい飲み会が開かれていた。航路の中、一部のクルー達が酒を嗜んでいる。
いつもは割と賑やかな彼らだが、ここ最近はその賑やかさに欠けている。言わずもがな、パンクハザードに潜入しているスティンとローがいないからだ。





「しばらくはおれ達だけで不安だったけど案外何とかなったよな」

「スティンの酒勝手に飲めるし。あいつ酒のセンスまじでいいんだよなァ」

「バレたら斬られるぞ、お前」

「ちなみに今飲んでるのもスティンが買ってきた高い酒。だからお前ら全員共犯」

「「ハッ!!?」」





1人のクルーの言葉にシャチは別行動を始めた数日後にこっそりスティンの酒を飲んだことを明かす。
そして今ある酒も彼女のものだと言うことも。
飲んでしまったものは仕方がない上に中々の美酒をこれ以上飲むなと言われても止められるはずが無い彼らはまあなんとかなるか…と軽い現実逃避をした。





「スティンとキャプテン大丈夫かなァ…」

「あの2人のことだから大丈夫だろ」

「おおペンギン、それアテ?」

「ああ、作ってもらってきた」

「さすがペンギン」





机に向かって海図を書いているベポの心配気な呟きに答えたのは器用に両手に皿を3枚ずつ持ち、室内に入ってきたペンギン。
酒のアテが乗った皿をテーブルへ置くと各々がそれに手を伸ばす。
ペンギンはシャチに酒を注いでもらい、軽くそれに口をつけ数ヶ月前の出来事を思い出した。





「船長が突然パンクハザードに潜入するって言い出した時も大変だったからな」

「あー…スティンのこと置いてくって言った時のスティンの怒り具合というか狂いようというか……半端じゃなかったよなァ」





ペンギンの言葉にシャチも腕を組みながらうんうんと頷く。彼らは思い出す。それは数ヶ月前、ローの発言から始まった出来事。










『だからなんでって聞いてるの!!』

「何度言わせりゃ気が済む」

『私を連れてくって言うまで!』

「お前なァ…」





パンクハザードへ潜入すると言い出したローは他のクルーには既に伝えていたもののスティンには中々言い出せずにいた。
それはこうなることを見越してなのだが。

割と彼女の機嫌が良い時に漸く潜入する旨を伝えれたのはいいがやはり厄介なことになったとため息を吐き出す。





『私も連れてって』

「ダメだ。シーザー・クラウンという科学者はドフラミンゴの配下にいる。パンクハザードでコトを済ませたら必然的にドフラミンゴと衝突するのは明白だ」

『じゃあ…!尚更連れて行ってよ!』

「そんな危険な場所に連れていける筈ねェだろ。あのドフラミンゴと戦うかもしれないんだぞ。わかってんのか、お前」

『わ、わかってる…けど……』





ドフラミンゴに対する恐怖が完全に消えているわけではない彼女にとっていくらこの数年で多少はマシになったと言えど接触させるのは危険だと感じているロー。
この2年間片時も離れることのなかった2人だが今回ばかりは別問題だと考えていた。





『………ローは私がいなくてもいいの?』

「………」

『…私はもう、ローと離れるなんて考えられない』

「……別に一生じゃねェ。少しの間の話だろうが」

『それが少しでも一生でも私には同じなのよ!』

「とにかく、お前はベポたちと残れ」





それでも彼女にはローと居るという選択肢しかないらしい。いくら説得に応じようとも彼女が首を縦に振ることはなかった。
ギャアギャア騒がしかったスティンは途端に声を落とし、うるっとその瞳に涙を浮かばせて目の前のローを見上げる。

それに一瞬今までの勢いが殺されたローはうっ…と顔を歪ませた。





『……わかった、』

「………ならこっちの船のことは…」





お前に任せたぞ。そう言おうとしていたローを無視し、スティンはスタスタと船首へ向かう。





『死ぬ!!』

「ハア!!?ちょ、スティンっ待て待て待て!何してんだおいっ」

『ローが私のことを置いて行くなら生きてても仕方ないのよっ!』

「お前なんかちょっと違うけど、これデジャヴ!!」





甲板での彼女らのやり取りを見守っていたクルーたちは彼女の暴走に途端に騒ぎ始めた。船淵に足をかけたスティンの体を俊敏に止めに入ったベポとシャチ。





『離してシャチ!ベポっ!』

「落ち着いてスティンっ」

「船長っ止めてくださいよ!」





足半分を海へと投げ出しているスティンを引っ張りながらシャチから苦言を言われたローはROOMを広げてスティンと彼女を止めていたベポとシャチごと移動させる。
代わりに甲板にはクルーが入れ替わり、スティンが足をかけていたせいで危うく海に落ちかけるところを仲間のクルーに助けられていた。





「あ、危なかった…」

「よかった…」

『…………』





呼吸を乱して安堵する1人と1匹とは対照的にスティンはムッスゥ!と頬を膨らませて不貞腐れている。
ハァ…と盛大なため息を吐き出したローは甲板に座り込むスティンの目の前に座り込んだ。





「…わかった、お前も一緒に来い」

『…!ほんと…!?』

「その代わり、勝手な行動はしないと約束しろ」

『わかった!』





約束する!と元気に答えた彼女だが、クルー全員が思った。あのスティンが大人しくしてるわけがない、と。

だがスティンをこの船に残したところで今のような問題が発生しても彼らには止められない。
ローがスティンを連れて行くと決断してくれたことにクルー全員がホッとした。





「おれ、あん時死ぬと思った」

「容赦ねェよな船長」





スティンと入れ替えられ、危うく命を落とすところだったクルーの肩をシャチがポン、と叩く。





「スティンも船長の扱いに慣れてきたよな」

「前まで泣き落としなんか使わなかったもんな」

「あいつ役者になれんぜきっと」





2人のクルーの言葉にシャチが酒を注ぎ足しながらニヤニヤと呟く。ベポは書き終えた海図を机の上に置いて彼らの輪に入るようボスンと床に腰を下ろした。





「スティンっていつもは気丈に振る舞っててすごく頼れるのにね」

「こと戦闘に関してはヤバイ」

「戦闘狂だからな」

「こないだ船長が寝てる間に暇潰し、とか言って敵船沈めてたし」

「え、まじで」

「マジマジ」





ベポの言葉に同意の声を漏らしたシャチとペンギン。シャチはスティンが勝手に一人で敵船を沈めに行ったことを思い出し、あの時のあいつの行動力まじでびびった、と呟く。





「何してるんだか…船長にバレたらバラされるぞ」

「だから絶対言うなよ」

「敵船沈めるとか海兵時代の性分が衝動的に出たのか」

「それもあり得そうだけどあいつの場合ただ暴れたいだけじゃね?」





その事実を知ったペンギンはやれやれと肩を落とし、グラスの酒を飲み干す。
口止めするシャチにクルーがぼやけば、割と行動を共にすることが多いシャチが彼女の本性からして一番高い可能性を口にした。





「けどスティンが言うには海兵時代はサボリ魔だったって言ってたよ」

「問題児。なんか想像つくわ」

「大変だったろうな、その時のスティンの部下たち」

「けど何人かスティンの部下に会ったけどみんな結構スティンに慕ってた感じだったぞ」

「まじで。頼れる上司だったのか?あのスティンが?」

「伊達に16で中将にならねェだろ」





しみじみと呟くペンギンに頷くクルー達だったが、シャチはいくつかの島で会った海兵時代の部下を思い出す。
信じられないと言いたげな1人のクルーの言葉に以前スティンに会う為だけにこの船にやってきた海兵を思い出したシャチはやけに確信めいた口調で言葉を返した。





「けどスティンってたまに凄く幼くならない?」

「特に船長の前な」

「スティンの船長へのデレ具合たまにくるもんあるんだけどおれだけ?」

「いや、わかる。」

「船長も船長でかなりスティンにハマってるよな」

「言えてる」





ベポの言葉にシャチが反応してすぐクルーの2人の意見が合い、盛り上がる。ペンギンは皿に乗った肉を口にし、そういえば…と声を漏らした。





「覚えてるか?スティン、最初はおれたち全員に敬語だったの」

「うわ、懐かしいなオイ」

「船長のこともキャプテンって呼んでたよね」

「初々しかったよなー」

「付き合い始めとか船長もあんなだからよくスティンと喧嘩してたよな」

「スティンって何に対してもストレートだもんな」

「けど船長があんなに素直になるのスティンぐらいじゃねェか?」

「"死の外科医"の異名が薄れる瞬間だよな」





シャチの一言に全員が腹を抱えて笑い声をあげる。
度々酒を飲めば話の渦中にいるのは大抵スティンとローだ。この数ヶ月は特に。
ひとしきり笑ったクルーたちによって賑やかだった室内はシン、と静まり返る。





「はー……」

「スティンと船長、早く戻ってこねェかなァ……」

「「「うん…」」」





ペンギンの盛大なため息の後、シャチが呟けば、この場にいた全員がしみじみと頷いていたそうな。














みんみんぜみ様、企画参加ありがとうございます!
ベポ・シャチ・ペンギン何してるんでしょうね。
名前や各々の性格とか明らかになると私が書いてきた2人と1匹はどうなるのか不安です。笑
作品どれも好きと言って頂けて嬉しい限りです/ _ ;
これからもよろしくお願いします!


沙夜