寂しいところだ、と思った。一人という事実がそうさせているのかもしれないけれど。
住んでいた村よりもずっとずっと東の、ずっとずっと北。まあつまり、寒いところ。
その地を綾音は疎開先に決めた。特に意味はない。あの村から離れられるのなら、どこでもよかったのだ。
二人の思い出がない場所なら。
それほど多くない荷物の整理を終え、綾音は小探検に繰り出した。
小さな山というか、丘の上にある新しい住まいからは、買いものに行くにはそれを下らなければならない。
下りたところにあるちいさな八百屋には、「この辺りにはうちくらいしか店がないから」と少しの魚や肉も置いてあった。若いのにこんな辺鄙なところに、大変ねえと八百屋のおばあさんが笑う。
そのおばあさんに手を振って、当てもなくふらふらと歩いた。
(・・・ほんと、何にもないな)
申し訳程度に整備された道を、ゆっくり踏みしめる。不快な感じはしない。少し不便で寂しいけれど、自然の豊かな良いところだ。
暫くさくさくと進んでいると、かすかに水音が聞こえた。足を速める。
道が開け、川が姿を現した。水音の正体。
(・・・気持ち良さそ、)
殆ど衝動的に下駄を脱ぎ捨て、浅いところに足を浸す。この北国では既に秋がそこまで来ているらしい、木々の葉は色づきつつある。
俯くと、小魚が足の間をすり抜けていった。
(・・・あの時、は)
あの日は、「気持ち良さそう」と言ったきり、川には入らずくだらない話をして笑った。
僅かな悪い予感も、知らない振りをしていられたのだ。
隣のぬくもりは、もういない。
(・・・やめよう、)
もう、思い出すのは。
どうにもならない現実を嘆いてもはじまらないのだ。
一人で生きてみること。
それが、まずは自分なりの、決意。
暫く川に浸かっていたせいだろう、ぶるりと寒気がした。ここは秋が短く、冬が長いと聞いている。
マフラーを編もう、とふと思った。家から持ってきた、あの白のような銀のような不思議な毛糸で。久しく自分用のものは編んでいない。
下駄を履き、砂利を踏みしめる。秋を思わせる風が、髪を揺らした。
震える足で、一歩を
(自分の足で進む、)
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