「神威団長!いい加減に仕事してください!」
宇宙海賊春雨の船内に、詩音の怒鳴り声が響き渡った。
怒られた当の本人は全く堪えていないようだが。
「やだなあ詩音、そんなに怒らないでよ」
「怒ります!めちゃくちゃ怒ります!何で今日提出の書類がまだ1枚もできてないんですか!?」
神威の机には、山積みの書類。
「簡単なやつだからちょこちょこやればいいのに・・・サインとかだけなのに、何でこんなに溜めこむんですか!?後でこうなるの目に見えてるじゃないですか!」
「えー、簡単なら詩音がやっといてよ」
「あたしじゃできないから言ってるんです!大体普段から書類はできるだけあたしと阿伏兎で処理してるのにっ、何でこんなに溜めるんですか!?」
「やめとけ詩音、団長に怒鳴っても無駄だ」
間に入って詩音を制したのは、さっきまで黙々と書類を処理していた阿伏兎。
「ちょっと阿伏兎、それは俺が言うこと聞かないお子ちゃまってことかな?」
「それ以外に何があるんだこのすっとこどっこい」
「・・・いくら阿伏兎でも、言い方に注意しないと殺しちゃうぞ☆」
「・・・・・・」
「1枚につき5分です」
何やら電卓で計算していた詩音が、顔を上げて神威に言い放った。
「この書類1枚につき5分で、今から終わらせてください」
神威の背中を冷たい汗が流れる。
「・・・いやいや詩音、冗談だよね?」
「残念ながら冗談じゃありません。神威団長の食事と睡眠、その他諸々にかかる時間とこの書類の枚数を計算した結果です。1枚5分で終わらせてください」
これは本気だ。
目が笑っていない。
どうしようか、と神威はあまり使ったことのない脳味噌をフル回転させて考える。
考えろ、考えろ。
「宇宙船勝手に引っ張り出して地球にでも遊びに行ったら、どうなるかわかってますよね?・・・ブラックホールに投げ飛ばしますよ」
ぶち切れた時の詩音の恐ろしさは、春雨で有名だ。
「・・・・・・!」
神威は何か思いついたらしく、くるりと詩音に向きなおった。
「詩音、膝枕してよ」
「・・・は?」
予想外の言葉だったのだろう、詩音の口からすっとんきょうな言葉が洩れる。
「・・・いやいやいや、何言ってるんですか。そんな状況じゃないんですけど」
「30分詩音の膝枕で昼寝させてくれたら、1枚3分で書類終わらせるのになー」
「・・・マジで言ってるんですか」
「やだなあ詩音、俺はいつもマジだよ?」
「・・・・・・」
神威の最後の発言は軽くスルーして、詩音は思案した。
そして、
「・・・わかりました。きっちり30分ですからね」
「聞き訳のいい彼女で俺は嬉しいよ」
「彼女になった覚えは全くありません、あたしは神威団長のただの部下です」
「つれないなぁ」
「つれなくて結構です」
足を伸ばして座った詩音の腿に、神威が頭をのせる。
「詩音の腿、やわらかくて気持ちいいね」
「・・・パワハラで訴えますよ?」
「あはは、そうなったら面白いね」
そう言いながらも、神威はうとうとと眠りにおちていく。
その寝顔は年相応で、長い睫毛に思わずどきどきしてしまった。
「詩音・・・」
夢と夢の間に洩れた呟きに詩音が顔をあかくしたことは、誰も知らない。
有能で上司に甘い、僕の部下
(「部下」が「彼女」に変わる日は、きっとそう遠くない)
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