(眠い・・・)
詩音はふわあと欠伸をして、ぼうっと町を見回した。
長閑な午後。
やわらかな日差しに、思わずまた欠伸が零れる。
(今日の晩ご飯は何にしようかな・・・)
あまりに長閑すぎて寝ぼけている頭で考えていると、後ろから声をかけられた。
「そこの女子、随分と立派な欠伸をしているな。俺の彼女に後ろ姿が似ていてつい声をかけてしまった、よかったら振り向いてはくれないか」
この声に、この話し方は。
「なぁに、小太郎」
「おお!やはり詩音であったか!」
にこにこと笑うのは、狂乱の貴公子、桂小太郎。
詩音の幼馴染み兼彼氏だ。
「どうしたの、こんなところで」
「いや、少し時間が空いたからな、外でも行くかと」
「ふうん」
「それで詩音に会いたいと考えていたら、こうして出会えた訳だ!詩音、やはり俺たちは運命の赤い糸で結ばれているぞ!」
「うんお願いだからやめて恥ずかしいから」
詩音は気をとりなおして、「エリザベスは?」と訊ねた。
「ああ、置いてきた。エリザベスの可愛さで一緒にいるとどうも目立ってしまうからな」
「・・・ああ、そう」
可愛さで目立っているのではないことは、この際言わないでおこう。
「詩音は、どうしたのだ?」
「うん、晩ご飯考えながら散歩」
「じゃあ、少し一緒に歩かないか」
「うん!」
詩音の歩く速さに合わせて、桂はゆっくり歩いてくれる。
なかなか会えないちょっと電波な彼氏だが、こういうさりげない優しさに惹かれてしまう。
「この頃、忙しいの?」
「ああ、そうだな」
ちらりと見ると、目の下に薄く隈ができている。
「ちゃんと寝なくちゃ駄目だよ」
「ああ。ありがとう、心配してくれて」
「・・・別に」
桂は機嫌よく笑って、詩音の手を取った。
「わっ」
「これくらいなら、目立ちはしないだろう?」
「あ、まあ・・・うん」
きゅっと握られた手が、あつい。
こんなの、彼氏と彼女なら、普通な筈なのに。
どくんどくん、と鳴る心臓が五月蝿い。
「詩音、どうした?」
「へ?なななな何が?」
「顔が真っ赤だぞ、熱でもあるのか?」
「なっ・・・!違う、熱なんてないから!大丈夫だから!」
「そうか?・・・でも本当に赤いぞ、無理してないか?」
「してないしてない!」
「ならいいのだが・・・」
桂は心配そうな表情を、ふと消した。
「詩音、お主、もしかして・・・」
「な、何?」
「照れておるのか?」
「なっ・・・///!」
核心を突かれて、更に顔が赤くなる。
「なるほどな、急に赤くなったからおかしいとは思ったのだが・・・」
桂はにやにやしながら詩音を見つめる。
「ううう五月蝿い///!」
「まあそう言うな。可愛いぞ」
「・・・っ///!あーもう、知らない!」
手を離そうとしても、握られた手はなかなか振りほどけない。
「悪い悪い。少しからかいすぎたか」
桂は笑って、詩音の手をきゅっと握りなおした。
その動作に、不覚にも頬がまた赤くなったのは気づかれただろうか。
その男、要注意
(余裕の笑顔が憎らしい!)
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