TEXT log bkm top



恐々、そっと。
新緑の長い前髪をかきあげると、酒が入っているせいか少し弛んだ穏やかな寝顔が現れた。
仲間内では自分に続いて年長なのに、それを思わせない幼い顔。こうやって髪を降ろして緊張感のない表情をしているとそれが殊更、強調されている気すらする。


ペットを飼った経験は無いけれど、多分可愛がってるそれの安心しきった寝姿を眺めているときの気分はこんな感じなんだろう。
目の前のコイツから尻尾を振って自分の後をついて回る少し頭の弱い大型犬を連想した自分に小さく、笑みが溢れた。成程、まさしく親バカ丸出しで飼い猫を溺愛する士朗や、なんだかんだワガママなでっかい猫と自由奔放なこれまたでっかい犬(と、言ってもどちらも過言じゃない。絶対に)を養ってやっているサイレンの気持ちがわからなくもない。

「ノンキな顔しよって……」

起こしてしまわないように、気付かれないように。識が漏らす寝息より小さな、低い声で呟きながら触れた頬は、暖かかった。勿論今はアルコールのせいもあるのだろうが、元々コイツの体温は少しだけ高い。
そういえば顔つきだけじゃなくて、体温までオコサマみたいやななんてからかってやったら本人も気にしていたのか、珍しく本気で拗ねられたこともあったんじゃなかったっけか。確かあの時は機嫌を直してやろうと一応けっこう、とまではいかないけれどまあそこそこ、努力はしてやったものの全然効果がなくて、結局俺も逆ギレして……なんて、思い出に浸っていたらつい、僅かにではあるけれど声に出して笑ってしまっていたらしい。
唸りながらみじろいだ識から咄嗟に手を引きつつ、息を殺して様子を伺うとそのうちまた、聴こえるのは微かな寝息だけになる。

「……って、なにビビっとるんや俺。起きたら起きたで別に構わへんやろ」

そうやって自嘲する声すら、また小さく低くなるよう無意識に気をやってしまうのだから、どうしようもない。
そう、俺が識を起こしてしまったところで困ることも責められることも無いだろう、そもそも人の家で呑んでいて酔い潰れてしまったこいつが悪いんだし。外に放り出して、さっさとウチに帰れと言ってやるだけでいい、なのに。
朝まで目覚めなければ良いと、このまま寝顔を眺めていたいと願ってしまうのは、どうしてだろう。目が覚めたこいつを、家族の元に送り出すのが嫌だと思ってしまうのは。



………ええか。今日だけ。今日だけ、やから。

こんなにも、気持ち良さそうな顔して眠ってるヤツを起こしてしまうのは悪いから。
自分自身にそう言い訳をして携帯電話を手に取り、こいつの代わりに一言メールを送ってからそのノンキな寝顔の隣に潜り込んだ。



***




視線の行き先

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -