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雨のち、雨のち、





滝のような、雨。
急に暗くなったと思ったら、すぐこれだ。
窓に叩き付ける水滴に苛つきを覚えながらテレビの音量を上げると、リモコンをソファーに投げ捨てた。

『──雨は時折勢いを強めながら、明日の朝まで降り続くでしょう。次は、芸能ニュースです……』

四肢を床に投げ出し手近な所にあったクッションを引き寄せると、それを抱き締めながら小さな溜め息を吐き出す。
予報を見ずに遅刻ギリギリで飛び出していった同居人は、まだ帰らない。
幾らあの脳筋馬鹿でもこの雨の中ずぶ濡れで帰ってくれば、風邪のひとつやふたつ引いてしまうのではないだろうか。
帰ってくる頃合いを見計らって、風呂でも沸かして置いてやるか。それとも温かいものでも用意して置いてやるか。…ああ、あいつはきっとびしょびしょのまま家に上がろうとするに違いない、タオルも用意しとかなきゃな。

──益々勢いを増す雨脚。

(畜生、雨なんて嫌いだ)

ゆっくりと緩慢に寝返りを打って水滴に濡れる窓を睨み付けると、小さく悪態をついた。
昔から雨の日は嫌いだ。理由は特に無いのだが、なんとなく。全てにおいてやる気が起きなくて、こうしてゴロゴロしているだけで1日が終わってしまう。
ゴロゴロとしているだけで思考はずっと働いているから、余計な事まで考えてしまうのだ。…あいつが濡れて帰って風邪を引くのは自業自得だし、うちの廊下を水浸しにしたら自分で掃除させればいい。それだけ、だと言うのに。

本日何度目かもわからない、苛立ちを含んだ溜め息が薄暗い部屋に散る。
一度強く瞼を閉じ、一呼吸置いてから勢いをつけて上半身を起こした。



湿気によって好き勝手に跳ねている髪を適当に束ね、風呂場に乗り込む。
ジャージの裾と袖を捲りながら浴槽を擦っていると、やけに冷静な思考に『何をやっているのだ』と問い掛けられた。
労ってやる必要なんかない、そう結論付けたばかりではないか、と。なのに、なんなんだ。自分はどこまでお人好しなんだ、全く。

左右に強く首を振り、天井に視線を向ける。流れっぱなしのシャワーの音が、リビングで聴こえていた雨音に似ていて…少し不快だった。

(…お人好し、か)

無意識に口角がつり上がる。
わかってる、お人好しなわけじゃない。お人好しどころか、人に世話をやくのは嫌いだと思う。面倒臭いし。
なのに。
あいつをいちいち気にかけてしまうのは。
あいつに優しくしてしまうのは。
多分…───




自嘲の笑みを浮かべながら、掃除を再開する。
そう、もう随分前からわかってはいたんだ。ただ、伝える勇気が無かったから…こうして半ば無理矢理自分の家に居候までさせた。

あとすることは、たったひとつ。

──今日こそは。
気合いを入れて、伝えねばなるまい。
小さく声に出して自分自身に喝を入れると、浴槽に栓をして蛇口を捻った。

脱衣場で濡れた手足を拭っていると、遠慮がちにゆっくりと扉の開く音が廊下に小さく響く。
深呼吸して自身を奮い立たせると、玄関に向かって声を張り上げた。

「ほら、バ甘寧!家中びしょびしょにする前に風呂入っちまいなっつの!」


しおらしい返事と共に、此方に向かってくる濡れた足音。
嗚呼、柄にも無く緊張してきたっての。
…よし。あんたがここまで来たら。一回だけ、言ってやるよ。



あんたの事、愛してるんだって。
あんたと付き合いたいんだけど、いいかい?…ってな。





***




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