TEXT log bkm top

きみにとどけ





頬に触れる、自分の物では無い体温が心地良い。
無意識にそこに擦り寄ってやれば、凌統が小さく目を見開いたのがわかった。

「なんだい、珍しいね。あんたが甘えて来るなんてさ」

くつくつと喉を鳴らすように笑いながら、更に立てていた髪に指を絡められる。
掻き乱されるのは若干不満ではあったけれど、掌の感触に瞳をゆっくりと細めた。

「なんかあんた、猫みたいだ」

少しの静寂の後に、あいつが呟く。
独り言のような、でも揶揄するような口調が気に入らなくて小さく舌打ちをしてやった。
ついでに軽く頭を振って好き勝手に髪を乱していた手を振り払えば、困った顔で肩をすくめられる。

「ホントに猫みたいだね、拗ねたのかい?」

「…煩ぇよ、眠いんだからほっとけ」

寝台の上で寝返りを打ち、わざとらしく眠そうな声を作る。
ついさっき迄掌が触れていた箇所が、急に外気に曝され冷えていくのが寂しい。
…寂しい?
何を考えているのだ、自分は。
もう一度寝返りを打って、あいつに甘えてやろうかなんて。
後ろの野郎の思惑通りでは無いか。

「なぁ、甘寧?」

自分で、自分の頬に触れる。
自分ばかりが相手を求めている気がして悔しいから、呼び掛けは無視してやった。

(…畜生)

頬に触れた掌を、這わせるようにそっと動かしてみた。
欲しい体温はこれじゃない。
触れて欲しい掌はこれじゃない。
もう少し冷たい癖に触れられると途端にそこが暖かくなって、もっと指は細くて長くて、綺麗な手。
凌統の、手。

(なんでだよ)

なんで、俺は俺の知らない間にこんなにもあいつに溺れてるんだ。
あんな野郎、いなくなっても痛くも痒くもない…筈、だったのに。
なんで、こんなにも──

「ったく、総無視かい?冷たいね」

突然、ふわりと背中から抱き締められた為に思考が半強制的に中断される。
欲しかった、体温。
鼓動が高鳴り、安堵すると同時に悔しさも増す。

「だから煩ぇって、離せよ」

「嫌だっての」

強く肩を引かれ、仰向けに転がされると上体を起こした凌統と目があった。
不機嫌そうな顔しやがって、絶対俺の方が不機嫌なのに。
顔ごと視線を反らしてしまいたいけれど、がっちりと顎を拘束されてしまっている為にそれは叶わない。

「なぁ、あんたは俺の事、どう思ってる訳?」

こいつにしては割りと真剣に尋ねて来るもんだから、野郎二人で寝台に並ぶような仲なんだ、聞かなくてもわかるだろ、なんて。
茶化してやろうと思ったけど、やめた。

「さあ、どうだろうな」

あっさり答えてやるのも癪だから、今はこの答えで十分だ。

「じゃ、俺本当に寝るから。邪魔すんなよ」

おい、だのちょっと待て、だのなんだか喚いてるみたいだけどもう知らねえ。
瞼を閉じて、本格的に眠りに入る事にする。
教えてなんかやらねぇよ、きっとドン引きされるくらいお前に惚れちまってるから。
そのうち、俺がお前に惚れてるのと同じくらい俺に惚れてくれたら。
ちゃんとお前のこと、愛してるぜってたっぷり時間をかけて話してやるよ。

だから、それまでは。
そこでギャンギャン喚いてな。




***




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -