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under the shining rain





非協力的な同居人(と言うか居候共)がだらけている横でギリギリ大掃除を終わらせて、大晦日は格闘技番組だと主張するニクスと歌番組の方が定番だと言い張る英利を落ち着かせて(去年は格闘技の方をみたのだからとニクスをなんとかたしなめた)、静かになったと思ったら年越しはうどんか蕎麦かで掴み合いの喧嘩を始めたふたりを最終的に怒鳴りつけて静かにさせ(去年も同じ内容の喧嘩をしたので今年は両方用意して置いた)漸く、一息。
元々年の暮れは忙しいものだ、そんなことはわかっているけどそれにしても忙し過ぎるんじゃないか、これは。
ついさっきまで一触即発の掴み合いをしていた張本人たちは女性歌手の誰が好みか語り合い、と言うよりはお互い主張が激しいせいでそろそろまた言い争いにでも発展しそうな雰囲気で、思わず溜め息が漏れた。

「…なに溜め息なんかついてんだよ、もうすぐ年越しだってのにしみったれてんな」

貴方たちのせいデスよなんて言い返すのも面倒で、再び深く息を吐き出してからもうすっかり冷めてしまったインスタントの蕎麦つゆを啜る。
ニクスがこの無言をどう取ったのかは知らないけれど、僕が呆れていることに気付いてはくれなかったようだ。カウントダウンまでテンション上げて行こうぜ!と、酒が入っているせいもあるのか能天気に僕の肩を叩くニクスにもうひとりの居候がすかさず茶々を入れた。

「全く…サイレンさんはお前の我儘っぷりに呆れてるんだろ。わかってないな、これだからニクスは」

まるで自分も被害者だとでも言いたげな顔でコーヒー飲む英利に本日二回目の心の中でのツッコミを入れると、少しでもこの精神的にも肉体的にもたまった疲れを忘れようとビールの缶をあける。
……何が悲しくてこんな日にまでアルコールに頼らなくてはならいのか。

「は?逆だろ、ザザムシのクセにギャーギャー煩いからサイレンも困ってるんじゃねーか」

「ザザムシのクセにってなんだよ!大体さっきみる番組決める時に散々我儘言ってサイレンさん困らせてたのは誰だろうな?」

「っせェな…お前がいなきゃ番組なんかで一々グダグダ言わねーで済んだだろ。そもそもお前、カワイー恋人と一緒に年越すつもりだったんじゃねーの?」

「あー……そう、だけど、」

もう言い争いを止めるのすら面倒で、無視するには少し大きすぎる声の向こうでクライマックスの盛り上がりを見せている歌番組に意識を集中させようとしたそのとき、英利の歯切れが急に悪くなった。
そういえば、今月の始め辺りに英利がそんなことを言っているのを聞いたかも知れない。二人でツーリングに行って初日の出がなんたらとか、だから元旦までうちにはいないかもしれないとか。結局その日以降英利はその話をしなかったから、すっかり僕は忘れていたけれど。

「なに、フラれたのかよだっせーな」

「違えよ馬鹿。…年越しは自分の家でした方がいいんじゃないか、って。新しい年は家族と迎えなよって、あいつに言われて、まあそれもそうかもなって納得した、から」

ついさっきまでとは一転、勢いを無くして少しトーンの落ちた声でそう呟く英利が、気恥ずかしいのかカップにまだ半分以上残ったコーヒーを一気に煽る。
…そうか、家族、家族か。
一緒に住んでいるしなんとなく惰性でこの二人と毎年こんな風に過ごしてしまっていると思っていたけどもしかしたら、違うのかも知れない。よく考えてみれば惰性なんかだけだったら、ただの同じ家に住んでいる他人同士なんて関係だったら友人の誘いを断ってまでこうして一緒に過ごしたりはしないだろう。
自分だけじゃない、ニクスだって昔と違って友人だって増えたんだし、わざわざうちにいなきゃいけないワケじゃないのに。こうしてここで新年を迎えようとしてくれているのはもしかしたら、自覚の有る無しは別にして彼も同じように考えていたのだろうか。新しい一年を、血こそ繋がっていないけれど家族と迎えられるように。

「…確かにそう、デスね。こうやってみんなで、無事に年を越せるのはステキなコトだとおもいマスし」

家族と迎える正月、なんてフレーズでさっきまでの憂鬱な気分がなくなりかけているあたり、自分も単純だと内心苦笑いが零れる。表情を見る限りニクスも英利も似たような気分になっていそうだから、その単純さを指摘してからかわれないのが救いかもしれないが。


そうこうしているうちに歌番組の終わったテレビを消し、三人で炬燵の周りを囲みながら英利の携帯電話から流れてくる時報に耳を傾ける。今年もあと、一分を切った。
少し前までの騒がしさが嘘だったみたいに真剣に聴きいる二人がちょっと滑稽だけど、ここで笑い声を上げるのは流石にどうかと思うので、我慢。あと、三十秒。
思えば今年も色々あったんだなあとか、ゆっくり回想する間もなくあと十秒。
それまで黙っていたニクスが、微かな声でカウントダウンを始める。
あと、五秒。四秒、三、二、一。
ポーン、と、機械音の後に続く音声に、だれかの吐息が重なった。

「…明けましておめでとうございマス、デスね」

「ん、今年も宜しく頼むっス、と」

「ま、仕方ないから宜しくされてやらなくもないぜ。また一年、うるせーお前らに付き合ってやるよ」





年越し以外はプラン通り恋人に付き合って貰えるらしく、今から初日の出を見るためにツーリングだとウキウキ出掛けて行った英利を見送り、酔いが回ってこたつで眠ってしまったニクスをなんとか布団まで運んでソファーで一息。
英利には風邪をひかないように厚着をしていけと小うるさく言ったし、ベッド以外で寝るなとニクスを散々叱った直後なのにここで寝てしまって体調を崩してしまったりした日には格好がつかないななんて思考の片隅では考えつつも、微睡んで重くなる瞼が止められない。
気が抜けて心身両方の疲れが来たんだろう、強烈過ぎる睡魔への抵抗をやめて意識を手放す直前、小さく祈った。

今年もこの家族と、仲間たちと、しあわせな一年を送れますように。






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