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遠い地の群青が
泣いてもいいよと囁いた






ねぇ、呂蒙殿。
ちょっとだけ…少しでいいんです、話を聞いて頂けませんか?
…いえ、別に大した事じゃ無いんです。
お忙しいのでしたら構いませんから。

大丈夫、ですか?
ならお言葉に甘えさせて貰います。


…呂蒙殿は聞きました?
ほら、凌統殿が…甘寧殿と。
ふ、呂蒙殿の所でもそんな様子だったんですか。
全く…惚気は程々にして頂かないと、まあ甘寧殿もあんな物言いをしながら満更でも無い雰囲気でしたけど。
ふざけるな、なんて言っていてもしっかり手を握ってたら説得力、有りませんよね。
甘寧殿があんな幸せそうな笑い方してるの、彼が呉に来てから初めて見ましたし。

ああ、それで私の話ですけど。
ちょっとだけ。ホントにほんのちょっとだけですよ。
なんだか…もやもやしてしまって。
あの二人を見ていると、心の隅が曇るんです。
どちらも大切な戦友であり、親友なのですから…心から祝福して差し上げたいのに。何か、引っ掛かるんです。
その何か、の正体は全くわかりませんが。
なんなのでしょうね、私ともあろう天才軍師が己の気持ちの正体を暴けないなんて。
…ちょっと、呂蒙殿。此処は笑う所でしょう?自分で何を言っている、って言いながら。
そんな難しい顔をして聞く所ではありませんよ。

で、話を戻しますけど。
嫌な気持ちがする、って事だけはわかるんです。
何故嫌なのか、何に対して嫌だと思っているのかがわからない。
一度気になるとこの何だかわからない感情が嫌で、ずっと考えるあまり睡眠が削られてしまって。
え?大丈夫ですよ、執務には影響させませんから。
ただ眠れないのはやっぱり辛いんで…だからこうして、呂蒙殿にお話させて貰ってるんですけど。
嫌になりますよね、ホント。
甘寧殿も幸せ、凌統殿も幸せ、彼らの喧嘩が無くなって私達も幸せ、めでたしめでたし。…それで良い筈なのに。
納得、いかないんです。



…呂蒙殿、甘寧殿は何故凌統殿に惚れたのでしょうね。つい最近迄憎まれ、命を狙われまでした相手に。
甘寧殿と、凌統殿はお互いどれだけの事を知ってるんでしょう。
話す時の癖とか、苛ついている時の顔とか、好きなものとか。ちょっと機嫌がいい時に、行く場所とか。
凌統殿は、甘寧殿を見掛ければすぐ何処かに行くか突っ掛かるだけでしたから。甘寧殿の不機嫌な表情とか、そのくらいしか知らないと思うんです。
楽しそうな表情も、落ち込んだ表情も私の方がずっと知ってる気がするんですよね。

ねえ、何か言ってくださいよ。
確かに私の話を聞いて欲しい、とは言いましたけど、相槌くらいは欲しいです。
…私の顔に何かついてます?そんな黙って見られるとちょっと、困ります。
……え?私が?…甘寧殿を?
変な冗談はやめてください、誰があんな戦馬鹿を。
凌統殿ならともかく、私はそんな悪い趣味してませんから。
良く仕草を見ていたのだって、あの人の面倒を任されていたから仕方無く、ですし。
そうですよ、凌統殿のお陰で私があの馬鹿が何かやらかさないか見張らないで良くなったじゃないですか。
もう、甘寧殿なんかとずっと…一緒に居ないで済むんです。
良いこと、なんです。

…だから、違います。
別に悲しい、とか悔しいなんて思いません。甘寧殿に恋慕もしていません。
信じてください、本当に何も無いんです。

気分が滅入ったのは、きっと。
疲れてでもいるんですよ、ここ数日もあの馬鹿が仕事しないせいで徹夜続きでしたし。
…それだけ、ですから…だから、すぐに元に戻りますから。

少しだけ、泣かせてください。

泣き止んだら、あの二人の所に行きます。
…あの人達を茶化すくらいは、許されるでしょう?


***

タイトルは風雅─fugue─様より




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