この世界は不可思議なことに満ちている。
平々凡々な毎日を過ごしてきた私にそのことを身を持って教えてくれた彼に、今日は感謝を込めてプレゼントを持っていきたいと思います。
「そんな訳でウィルバー。彼が何処にいるのか教えなさい」
「……お嬢さんは随分と不可解な趣味をしていらっしゃるようだ」
「しゅっ趣味とかじゃないわよ!ただ感謝を!」
「お嬢さん結構可愛らしいトコあるっスね」
「ロン毛は黙ってて」
「…………」
バッグの中にはプレゼントが包まれた包装紙。
喜んでくれるといい。
好みのリサーチは近所の犬らしき物体に聞いた。
あの物体も最近あたしを取り巻く不可思議な出来事の一つだ。
「ふふ…彼なら私達のアジトに居ますよ。何、水槽のある部屋と言えば通じるはずです」
「さすがウィルバー、伊達に紳士を名乗ってないわね」
「お嬢さんの恋路を応援させていただきますよ」
「こっ恋なんかじゃないわよ!」
さて、アジトね。
アジト…つまりあの温泉旅館!
アジトが温泉旅館なんて羨ましい。…あたしもあの組織に入れないかしら。
そしたら毎日彼と一緒…彼と温泉になんて入っちゃったりして。
「…………うふふ」
そんなわけで無事温泉旅館に到着。
…って紳士組のお二人はさらっと場所を教えてくれたけど、実際あたしが入って良いわけ?ねぇ、アジトに一般人が入れるの?
「あら、あなた…?」
「…あら、かわいこちゃん。…確か…オリガちゃん?」
「えぇ、では紳士組が言っていたお客様とは貴女のことだったのね」
「…そうみたいね!オリガちゃんはなんでここに?」
「私は令一郎さまのお供で…」
よく気のきく紳士組の助けもあって無事にアジトへ潜入。
かわいこちゃんと連れだってそわそわ。
オリガちゃんはどうやら令一郎さまというあのちっこい男前にゾッコンらしい。…死語かしら。
「こちらが管理官のお部屋です」
「ありがとー!オリガちゃんの令一郎さまもここ?」
「わっ!私のだなんてそんな!」
かわいこちゃんが更にかわいい!お姉さんはそんな君にもドッキドキ!
ドアノブに手をかけて深呼吸。
あぁ…この向こうに彼がいる!
紳士的に紳士で大人、落ち着いた物腰に豊富な知識!
「まさに理想的!」
「!?なんですか突然!」
あぁでもどうしよう今更緊張してきたわ…!
「お客様が来ると連絡を受けていたが、なんのご用かな」
目の前の扉が開いたと思ったら、そこにいたのは黒髪の男性。
オリガちゃんが視界の端でニヤリと笑う。
「見つけた…!」
ずっとずっと感謝したくてたまらなかった彼が!今!目の前に!
「頑張って」
そう言うオリガちゃんの優しさに報いるためにも!
「お久しぶりです……!素敵なネコさんっ………!」
「…………え、ネコ?」
辻褄合わせ
人の好みに口出しは厳禁。
「ネコさん…っ、あたし、あなたのためにきゅうりを持ってきたんです!」
『それは有難いですね。どうですか、お礼に紅茶でも』
「ぜ、是非…!」
背後では3人がポカンとしている。…何故かしら?
「………シュバイン、ネコに負けたな」
「……………」
「…………とりあえずここは、馬に蹴られる前に出ていくべきではないかしら」