「いや、やはり女性は美しい」
「何の話です?」
カナリーナに招待された夜会。
そのテラスで出会った男は自信ありような振る舞いで、そして夜に月の光を受けて開花する花を思わせる笑顔を浮かべて、私の胸元へカクテルグラスを差し出した。
ちらりとカナリーナの方を見やってみたけれど、彼女はドレスの裾がヒールに巻き込まれているのにも気付かずただ、ライトニング光彦とかいう男を見つめている。
意地っ張りな彼女の、片想いに揺れる表情は可愛らしい。
「…失敬、私は何か勘違いをしていたようだ」
「…何かしら」
「美しいのは女性ではなく、貴女だ」
…何かしら、すごく…胡散臭い。
「それは光栄ね。カクテルをどうもありがとう」
一息に言ってにっこりと笑う。
ただ、彼の細い指と、それを覆う白い手袋はとても美しいかたちをしている。
「…私の手がお気に召しましたか?」
「そうね、名前くらいは聞いておこうかしら」
白いタイを留めるタイピンが豪奢な照明の光を受けてキラキラと輝く。
「私の名は、音羽・スーパーソニック・山彦、人呼んで音速の2.5枚目」
「…それって悪口?」
「…いやはや、美しい薔薇には棘があるとはよく言ったものだ」
それにしてもこの男、よくもまぁここまで耳に心地良い流暢な話し方ができるものだ。
名前も、心なしか誰かを彷彿とさせるような。
「一歩間違えたら3枚目なんでしょう?」
「いいえ、本当に愛する方の前でこそ、2枚目だという意味ですよ」
「どうかしら」
「試してみますか?」
視界の端ではカナリーナがライトニング・光彦にまた勝手に玉砕して落ち込んでいる。
「ねぇ、貴方は素直になれないほどの恋をしたことがある?」
「カナリーナが気になりますか?」
彼にいただいたカクテルは淡い桃色をしている。
一口飲んでみれば、爽やかな甘さが口内に広がった。
「そうね。…とりあえず、カクテルのチョイスは合格だわ」
夜色のロングドレスに、裾に瞬く星々。
まるで間が空いたのを見計らったかのように流れた音楽に、音速のなんたらが恭しく頭を下げてみせる。
「美しい方、どうか私と一曲踊っていただけませんか」
差し出された美しいかたちの手に、抗う術もなく自らの手を乗せた私。
彼は相変わらず胡散臭い美しい所作で、ホールへと私を誘った。
ピンク・ラグーン
ろくでもない男だとはわかるのだけどね。
でもなんだか癪に障るから、ダンスの最中にピンヒールで足でも踏んでやろうかしら。