「ねぇ、ウィルバー」

「何か?」

「これってどういう状況なのかしら」


目の前に鎮座する革張りの黒いソファ。その丁度真ん中に腰を沈めた男が、ふむ、と一度頷いて目の前のティーカップを手に取った。


「どういう状況か、今わかるのは君が危機的状況ということかな」

「そうね、貞操の危機だわ」


ぴっちりと着こなされた堅苦しい黒いスーツに黒いネクタイ。喪服じゃないんだから、なんて心の中で悪態をついてはみたけれど、それを口に出すのは少しばかり気が咎めた。


「……返してよ」

「それはできませんね、紳士たる者、そう簡単に逃がしてしまっては名折れだ」


男の膝にキチンと畳まれたのは、私の服だったりする。
淡いピンクのシャツに、グレーのタイトスカート。
ご丁寧に一番上に置かれているのは私の下着。
桃色の生地に黒いレースがあしらわれたセットが、明らかに似つかわしくなく男の膝にある光景。

もし私が第三者であったなら、間違いなく警察を呼んでいるだろう。


「…風邪引いたらどうしてくれるのよ」

「汗をかくと熱も引くようですが」

「アンタなんて紳士じゃなくてオヤジだわ」


バスタオルを巻き付けただけの素肌を撫でる冷気に、ふるりと肩が揺れる。
髪の先を伝う水滴が胸元に落ちる度にびくりと口から息が零れる。


「………なんなの」

「…貴女が、余りにもわんちゃんの話を楽しげにするものですから、つい」


含み笑いで口許を緩める男。こいつは紳士だなんだとふざけたことを抜かしながら、一体何人の女を手込めにしてきたんだろうか。


「わんちゃんはかわいらしいもの」

「では、私は?」

「さあ、早く服返してくれない?」


真っ直ぐに私を見つめながら、男は手にとったエアコンのリモコンを操作する。

やがて、ピ、という音と共に温い空気すら部屋に流れなくなる。


「簡単なことです。貴女が、こちらへ来ればいい」


差し出された手を一瞥しながら、なんとなく外で待っているだろうロン毛が気になった。





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あぁ!なんてさえない私達!




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