海の向こうにゆっくりと落ちて行く赤い陽を見つめながら、その眩しさに目を細める。

少しずつ張り詰めて冬の匂いに変わっていく空気の中、静かに、けれども低く体の芯に響く波の音。

あたしはどうしてこんなところまで来てしまったんだろう。


最初はただひたすらに好きだった。

若さを理由にするつもりはないけれど、当時は少しの期間離れることも嫌だった。不安だった。
物理的な距離も、心理的な距離も。

「離れたくない」と口をついて出た言葉に、彼はいつもより柔らかい笑みを浮かべて、「後悔しない?」と聞いた。

今でも後悔はしていない。
それでも、ただ、哀しく思う。

あたしが好きになったのは、どんな人だったんだろうか。

今はもう会えない、愛しい人。
いつか会えたらいいのに、そんな到底無理なことを思いながら、肌寒さの中で黒いライダースジャケットのジッパーを上げた。


「白蘭、」


呼んだ名前と一緒に、あたしの中の彼の姿も攫ってくれたらいい。

名前を攫った、寄せては引いていく波にそんなことを呟いた。




ルージュで伝言
「大好きだったのよ」



あたしはどうしてこんなところまで来てしまったんだろう。

変わってしまった彼から逃れる術など一つも持ち合わせていないと言うのに。




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