カラン、コロン。

外の古い金属製の階段が小さくとも軽やかな悲鳴をあげる。その音を聞きながらソファでジャンプの表紙を捲ってみたが、不思議とそれ以上指先は進まなかった。
そんな俺をちらちらと伺いながら、それでも何も言ってこないのは少しずつでも空気を読むことを知ったからなのか。

カラン、コロン。

それでも音が近くなる度に新八はそわそわするし、神楽の口角は嬉しそうにあがるし、俺だってジャンプを今すぐに放り出したい衝動に駆られる。

でもそうしないのは、怒っているから。そうだよ俺ァ怒ってるんですよ。

カラリ。


「お邪魔します」


玄関の戸が開いたと同時、声を聞く前に神楽が部屋を飛び出す。待ちなさい!久々に聞く声くれぇちゃんと聞かせろ!余韻を楽しませろ!


「おかえりアル!」

「おかえりじゃなくて、いらっしゃいでしょう」


いやいやいや、もうこの際おかえりでいいんじゃないの?帰って来ればいいんじゃね?「ただいま銀ちゃん」とか笑顔つきで俺に抱き付けばいいんじゃね?


「…あら、お楽しみの最中?」

「あーそうだよ、俺ァ今からジャンプの世界にダイブすんだよ邪魔すんな」

「いってらっしゃい」


糖分の二文字が居座る額縁の真正面。開口一番何を言うかと期待していたのに、その形の良い唇から放たれたのは望んでいた類の言葉ではない。

反発するように返事をしてみたが、…あれ、止めねぇの?いつもなら「挨拶くらいしてくれたっていいのに」とか言うだろお前!何しおらしく…ってなんだよその諦めた顔!諦めるな!「銀ちゃん、あたし会えなくて淋しかった…!」とか言ってみろよ!すぐにジャンプなんか投げ出してやるよ!新八も神楽も投げ出してやるよ玄関から!


「緑茶でいいですか?」

「新八くんは気が利くわね、ありがとう」


オイィィ!新八何赤くなってんだよ!それは俺のなの!イッツマイン!


「これ、お土産」

「ありがとうございます!」


ちょっと待てェェ!そういうのは最初に俺に渡すべきだろ!「誕生日、間に合わなくてごめんね」とか言ってさぁ!あぁもうそうだよ!誕生日に!よりにもよってこの女は俺の誕生日に旅行行きやがったんだ!


「神楽ちゃんにも、はい」

「ありがとうアル!何アルか?」

「さるぼぼ人形」


あ、やっぱりいらねぇや。目に見えてがっかりしている…というか反応に困っている新八と神楽を横目に見ながらジャンプをテーブルに置き、また拾いあげて表紙を捲る。手持ち無沙汰なんだよ悪ィか!


「銀ちゃん」

「…んだよ」

「ジャンプ、逆よ」

「………」


あれ?っかしーな。それともアレか?「銀ちゃんへのお土産は後で」とかそういうアレ?ついでに夜は「誕生日にいなくてごめんね」とか言ってフィーバータイム?


「それでね、あたしさっきまで銀ちゃんの誕生日忘れてて」

「…………」


……………え?アレ、この子って俺の恋人じゃなかった?


「だからね、はい、」

「なんだよコレ」

「さるぼぼ人形」

「なんで!なんでさるぼぼ!お前なんで土産にさるぼぼをチョイスした!しかも誕生日の埋め合わせがさるぼぼって何考えてんの!俺に前掛けが似合うとでも!」

「あら、似合いそうじゃない、はい」

「ってあんのかよ!なんで?お前どんだけさるぼぼ気に入ったの?!前掛け買って何するつもりだったの?!お前は金太郎にでもなるつもりですか!」

「金太郎じゃなくてさるぼぼでしょ」

「そうじゃなくてェェェ!」

手渡された包みを開ければ期待を裏切らない前掛け。なんで?どうしよう俺この子がわかんない!

部屋の入口では新八と神楽がさるぼぼ人形を片手に俺を見つめている。


そして目の前の薄情な恋人はにっこり笑って言った。


「あたしが一回着たの」







ジーザス!
頼むから9日にタイムスリップしてくれ!
(折角だから前掛けはもらうけど!)




「いらない?」

「いるよ!」


あれ、新八と神楽の視線が冷たい………




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