「お嬢さんは、随分とイタリアがお嫌いのようだ」

「…遺言として受けとるわ」


狭い空間に響いた銃声。建物の外、相も変わらず芸のないランボルギーニのシートでタバコのフィルタを噛んでみせた彼は、質のいいシートの座り心地を確かめるように一度身じろぎし、助手席に目をやった。


コン、と固い音と共に彼がその目線を助手席側の窓ガラスに向ける。しかし彼は柔らかな瞳で窓ガラス越しの彼女を捕らえようとした事を、少しばかり悔いた。


「………」


低い音と共に窓ガラスが開く。その向こうに鮮明に浮かんだのは、愛用の銃の先で窓ガラスを叩いたままに無機質な視線を車の中の彼に注ぐ彼女だった。


「…お前…ノックなら普通にだな、」

「またランボルギーニなの」

「あぁ…シートは、ドイツ製だがな」

「………」

「…何か言えよ」

「任務は成功しました」

「……それはわかる」


彼女はホルターに銃を収め、車体に寄りかかる。彼は降参とばかりに両手を小さくあげ、ひらりと翻した。

毎回違う仕事着のスーツに身を包む彼女。今日のスーツは見ただけでもオーダーメイドだとわかる、有名ブランド。


「…ブルガリ?」


チラリ、彼女の表情を伺う彼に、彼女は窓から伸ばした手でランボルギーニのシートを撫でながら、「それが何」と冷ややかに言い放つ。


「しかもオーダーメイドか」

「あら、気づくもの?」

「そりゃぁそこまで綺麗に身体のラインが出てればな」

「……あなた方、軽いって言われない?」

「………」


呆れたように車体から身体を翻した彼女が、車から離れようと足を踏み出す。


「なぁ、たまには一杯、付き合わねーか」

「酒を飲ませて部屋にでも連れ込むつもり?事後承諾なんてゴメンだわ」

「…ちょっとは歯に衣着せろよ…」

「布の無駄遣いはしない主義です」


美しく身体にフィットしたダークグレーのスカートスーツ。太ももを彩る深いスリットとホルターで鈍く輝く銃。


「…お前、普段はどこにいるんだ」

「否定しないのね」

「あ?」

「さっきの」

「…あぁ、悪ぃな、…連れ込む気でいたんだ。本気で」


今度、悔いた表情を浮かべたのは彼女の方だった。突っ込まなければよかった、とまざまざと感情を浮かべる彼女に、彼は苦笑いして見せる。


「イタリア男は嫌いなの」

「…知ってる」

「…でも、」

「ん?」

「…たまには、食事くらいなら付き合います」

「……さすが、イイ女は物わかりがいいな」

「黙って」





箝口令
唇を塞げるのは唇だけ





「ロマーリオ、あなたブラジル出身なんでしょう?」

「あぁ、まぁ継いだモンと言やぁ腰使いくれーだな」

「…やっぱり帰る。降ろして」




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