「うっちゅ〜! 」
「はい、おはようございます」
「冷たい! 」
「はやく中に入りますよ」

 普段と何も変わらない光景が目前に広がって、複雑な気分だ。壊れちゃえば? という嫌な気持ちと、これからも王さまの隣にいて欲しいという手前勝手な希望。その二つがずっとないまぜになったまま、解決の糸口すら見つけられない。
「……早く中に入ったらぁ? 」
「おっ! セナおはよ! 」
「おはよ」
「瀬名先輩、おはようございます」
「うん、おはよ」

 あの子に恋をしてる泉ちゃんと、あの子と恋人の王さまと、たぶん泉ちゃんに惹かれているあの子。三人でいるのは、きっと、三人にとって辛いでしょうね。そんなことをぼんやりと思いながら、首に巻き付けたカシミヤのマフラーを直して、つま先に力を込めた。
「おはよう、仲良しさんね」
「おはよう、嵐」
「おはよう。あらやだ。お鼻真っ赤じゃない」
「早く中入ったらって言ってんのに、王さまがのんびり歩いてんの! 」

 ま〜くんに起こされて、渋々家を出て、半ば引きずられるようにとろとろと足を進める。冬の寒さに身体ぜんぶが室内とあったかい布団を求めている。「おい凛月〜もうちょっとだから頑張れよ〜」仕方なさそうな声で、それでもおれを置きざりにはしないま〜くんだけど、次の瞬間目の前に氷鷹北斗を見つけて走った。あ〜あ。そして俺の目の前には、ス〜ちゃんを除くKnightsのメンバーが和気あいあいと校門に向かっている。
「………おはよ〜」
「珍しいな! リッツうっちゅ〜! 」
「ん〜」
「なに、 ま〜くん ≠ヘ? 」
「あっち行っちゃった」
「あらあら、振られんぼしちゃったのね」
「ていうかセッちゃんさ〜、王さまカップルの邪魔しちゃだめじゃん」

 例えば天祥院のお兄さまは校門をくぐり昇降口のほど近くで車を降りますが、私は出来るだけ校門からちょっとだけ離れたところで車を降りることにしています。クラスメイトとの通学に、大いに夢を抱いているのです。そしてまた、今目前に広がる光景のように、通学する三年生の背中をこの視界に当たり前に収められるのも、あと少しのことなのです。
「おはようございます、皆さま方」
「おはよう、司くん」
「おはようございます、お姉様」
「この寒いのにわざわざ車降りたのぉ? 」
「むっほっといてください! 三年生との通学もあと少しなんですから、良いでしょう」
「……違うよ〜。セッちゃんはス〜ちゃんが風邪ひいたりしないか心配なだけ」

 いつもとは違う通学。校門まであとほんの少しなのに、ちっとも足が進まない。セナと目が合ったら、リッツの発言にバツの悪そうな表情を浮かべた。ナルと目が合ったら、くすぐったそうに笑った。リッツと目が合ったら、悪戯な笑みを浮かべたあと欠伸を寄越してきた。そして隣の 彼女 ≠ニ目が合ったら、少し寂しそうな色を置き去りにして、顔を伏せた。



夢のはじまり



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