私の首筋をなぞる人差し指と、目の前で不安そうに目尻を下げる眼差しと、橙の常夜灯にほのかに照らされて揺れる金糸のような髪の毛と、あらわな首でときどき上下する喉仏の出っ張り。それらを見つめて、気配を感じて、瀬名先輩の指先を想う。ひやりとした細い指、丁寧に切りそろえられた爪、骨ばった手の甲。まぶたを一度ぎゅっと瞑って、そうしてゆっくりと再び目を開けた。私をベッドに押し倒した体勢のままのレオが、その指先でそっと私の唇に触れた。その瞬間に、なぜだか説明のしようもなく、私の目尻からは涙がこぼれていった。レオの指先が、細かく震えていた。瀬名先輩ならスマートに、世の女の子たちが夢を見るように、きっと親指で唇を撫でるだろう。けれど、レオは人差し指で、震える右の人差し指で、なにかを確かめるように私の唇に触れた。ところ構わず作曲のためにペンを握る人差し指が、少し固かった。
「いやだったら言って。そしたらちゃんとやめるから」
 レオの声が小さく降ってくる。静かな静かな部屋の中で、これまでにないくらい優しく、ともすれば怖々と私に触れて、見つめるレオ。セックスする時に私のことを考えてくれるなんて初めてだね、と、冗談めかして笑ってしまいたかったけど、そんな言葉はひとつも口から出てこない。そっと薄いガラス細工でも包むように私の胸に添えた手のひらを通して、きっと私の心臓の音もすべて伝わっているんだろう。レオは私と同じように緊張したまま、まるでお互いが初めてお互いの肌に触れるように、ぎこちなく相手の顔色を伺っている。

 お互いに手のひらで肌のあちこちに触れて、時折二人で擽ったさに身をよじった。汗ばんだ身体がようやくひとつにくっついた瞬間、また涙が零れた。レオの辛そうな眉根と、引き結んで噛んだ唇だけが私の視界を占めている。何も言わなくてもちゃんとゴムを付けて、辛くないか、痛くないか、嫌じゃないか、とうわ言のように私に問う声が、夜の静寂に融ける。

 比較対象なんて瀬名先輩しかいないけど、レオのセックスはお世辞にも上手なんて言えなくて、それでも、私は今まで生きてきた中で、一番大切にされた、と感じた。そうしてようやく、ゆっくりと、レオの背中に両手を回した。



夢のおわり



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