「なんですかこれ」
朝、目が覚めたらテーブルの上がすごいことになっていた。いや、ぐちゃぐちゃじゃねーかコノヤロォ!なすごいことではなくて、なんかもっとこうハートフルな。
「おま、起きんの遅ぇよ」
「銀さんは珍しく早起きね」
「お陰で作りすぎちまったじゃねーか」
「何があったのどうしたのそのキッチンの惨状」
「見るとこ違ぇだろ。ここはテーブルの上見て"まぁ素敵"ってなモンだろ」
見るも無惨なキッチン。ちょっと待って、もしかしてアレを片付けるのはあたしなの?しかしそんな心中露知らず、彼はニコニコと、…ニヤニヤと?テーブルの前で寝巻きのままのあたしを見つめている。
「…寝起きにこんな食べれない…」
「今更女の子ぶっても無駄ですぅー」
「ぶっ殺すよ」
そうだ、テーブルの上にこれでもかと乗せられた皿の上には、これまであたしだって作ったことのないようなごちそう。そしてどれもこれも、あたしの好きなものばかりだ。
目の前の彼は少し汚れたエプロンで、指先をいじっている。よくよく見ていたらそれはバンソーコー。
つまり、
「…おいしそうだね」
「銀さん頑張りましたよ、お前がいつ起きてくっかわかんねぇプレッシャーの中でよくここまでできたなぁと自分でも感動中!」
「うん…ありがとう、嬉しい」
つまりはそういうことなのだ。久しく見ていなかったカレンダーには、今日の日付は歪なマルで囲まれているし、彼の字ではっきりと"誕生日"と書かれている。
「あれ、二人は?」
「バカですか、誕生日くれぇ俺に一番に祝わせろ」
「はっくしょん!」
「…何?何の嫌がらせ?今のは"銀さん…!"とか感動して抱きつくとこじゃね?…ってお前寝巻きじゃねーか」
「今更何言ってんの」
しゃーねーなぁ、と銀さんはテーブルを回ってあたしの背中から抱きついてきた。
「なんですかこれ」
「悪かったな、料理の材料費でプレゼントねーからこれで我慢しろ」
目の前に並べられた沢山のごちそう。耳元で囁かれる"冷蔵庫に特製ケーキもあっからな"という低い声。外の階段をあがる二人分の足音に思わず彼を見たら、彼はものすごく悔しそうな顔をしていた。
「あいつら空気読めよなー。3時間ぐれーかけてプレゼント選べっつったのに」
名残惜しそうにあたしから離れる腕と体温。
開けられた扉から飛び込んできた二人は、あたしを見つけるなり笑顔で叫んだ。
「誕生日おめでとう!」
幸せの予感
今年一番幸せな日ね
「…あれ、そういや俺一番に"おめでとう"っつってねぇな…」
銀さんの虚しい響きは、すぐに神楽ちゃんの感嘆に掻き消された。