「キャバクラで働かない、か……」


江戸の街を歩く。時刻は夕方6時過ぎ。最近仕事が見つかったから、と帰宅の遅い同居人の為にわざわざ夕食の買い物にきたわけだ。


「それなのに」

「いや、その、すまん」

「別にキャバクラのスカウトが悪いって言ってる訳じゃないの。なんであたしをスカウトするの」

「スマン。いや、後ろ姿を見て、人気が出そうな気がしたのだ」

「………あら」


珍しく黒いスーツを着て、長い髪は後ろ、肩の辺りでゆるくまとめられている。……ちくしょう、かっこいいじゃないか。


「…でも、やはりお前にキャバクラは合わん」

「何よ、スカウトが成功したら特別報酬でしょ?」

「それはそうだが」


もごもご。見た目はかっこいいのに中身は変わらずただのヘタレ。そのギャップがいいとか悪いとか、そんなくだらないことを考えることはしない。外に居るときはかっこいいとか、この男はそんなものじゃ計れないのだ。

どこに居ても、自分の意思を語るときの彼は、かっこいい。


「…いいのか?」

「キャバクラであたしが働くこと?」

「そうではない。俺が、キャバクラのスカウトをしていることだ」

「いいんじゃない?どんな仕事でも、胸張ってやってるならあたしは何も言わないよ」


そう言って彼を見れば、彼は意思の強そうな自然で力強く笑って見せた。


「……お前で、よかった」

「何が?」

「気にするな」


それきり、何も言わなくなった彼。さて、あたしは買い物に行かないと。彼に小さく手を振って、背中を向ける。手に握る財布に力を込めた。

何を作ろう、何を作ってあげよう。柄にもなく浮き足立ってしまう。普段はおかず一品だけど、たまには贅沢してもいいよね。だって、頑張ってるみたいなんだ。

誰にともなく心の中でそう尋ねる。もちろん答えはない。曖昧な関係で続く同居生活を思えば落ち込む気分も、彼の「ただいま帰った」という声を聞けば一瞬で浮上する。…つまりは、そういうことなのだ。

スーパーの中、棚の前でため息。しばらくはこんな関係でいてやるか。







OVER TUNE
軋むのはココロじゃない





ま、小太郎がなんとも思ってない女と同居できる奴なわけないんだけどね。その内「責任は取る!」とか言い出しそう。

あたしがこんなに小太郎を好きになった責任くらい、取ってもらわなきゃ。




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