「日本の夏というものは、いつまで経っても慣れませんね」

「…」

「おや、なんですか?その表情は」

「いえ、骸さん、いつも涼しげな表情をしているから」


目の前でクフフ、と独特な含み笑いを浮かべながら氷の溶けかかったコーヒーをストローでかき回す指先。グラスの中はカラリと涼しげな音をたてる。


「折角ですし、こんな涼しい場所じゃなくて外に出ませんか?」

「この暑い日にわざわざ、ですか?」

「私、夏って好きなんです」

「それは興味深いですね」

「セミの声が聞こえる夏の畦道なんて、最高なんですから」

「…ほう、それは是非、一度行きたいものですね」


長く伸びた体のパーツ。それは陽に焼けることを一切許さないかのように白い。


「少しは、陽に焼けてもいいと思います」

「そうですね、あの液体から外に出ることができた暁には、ぜひ」


それを聞いて私は、今しがた口にした台詞が間違っていたことにようやく気づいた。そうだ。この人は温度を感じることはできても、今この場所に確かな存在として現れているわけではない。


「……そろそろお疲れでしょう」

「おや、今日は随分としおらしい」

「私はクロームとガールズトークに勤しみますので、ご心配なく」

「僕としてはそちらの方が気になりますが」


それでも骸さんは嫌な顔ひとつせず、柔らかな笑みを浮かべたままミルクだけをいれたコーヒーを飲む。ただそれだけなのに、何故この人の所作にはいちいち気品があるのだろう。


「……何を考えてるんですか」

「いえ、どうでもいいことを」

「それは感心しませんね」

「…すいません」

「折角二人でいるんですから、どうせなら僕のことを考えていて下さい」


カラリ、溶けた氷がグラスの中で音をたてる。どんなに涼しい室内でも、氷は溶けてしまう。同じように、私だってそんな瞳で見つめられたら溶けてしまいそう。


「…骸さんのことなんて、会っていないときに嫌ってくらい考えてます」

「どうせ悪い考えでしょう」
「……」


ぐ、と台詞に詰まった私を、本当におかしそうに笑う骸さん。チラリと時計を見れば、既にクロームが骸さんに成り代わってから1時間が経過していた。


「…もう、1時間経ったんですね」

「相対性理論ですね」

「それはすごく乱暴ですよ」


クフフ、骸さんは本当に嬉しそうに、楽しそうに笑う。窓の外では、木漏れ日が風に揺れている。






ロマン探し
見つからないんじゃなくて、ありふれているだけ




「…ではご希望に応えて、次は花火でも見に行きましょうか」

「…骸さんとなら、やっぱりこんな時間でも、いいです」


そしてやっぱり、骸さんは本当に嬉しそうに笑った。




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