鮮やかなスカイブルーの半袖パーカー。真っ青な生地に黒いチェックを首に緩く巻いて、淡いピンクのTシャツと、茶色いサンダル。濃い色のダメージジーンズと、その腰からポケットに繋がるウォレットチェーン。
「あっちぃ、何これ。王子殺す気?」
「文句があるなら来なければよかったのに」
「ししっ何お前、王子にケンカ売ってんの?」
ペタペタとサンダルの踵を鳴らしながら、太陽にじりじりと焼かれるコンクリートの上を歩く。日本の夏は、暑い。海外の夏もそれなりに暑いけど、日本みたく湿度は高くないらしいから、少しは過ごしやすいようだ。
「…大体、なんでわざわざこんな暑い時に日本に来たの?」
彼はイタリアに住んでいる。そして私は日本に住んでいる。以前一度だけ、何かの任務で日本に来た彼に協力したことがある。それだけ。
「んー、ナツマツリってどんなん?」
彼はどこで聞き付けたのか、どうやら明日行われる夏祭りに興味があるらしい。金髪の前髪が揺れて、その隙間からブルーの瞳が見えた。ブルーの瞳にスカイブルーのパーカー。外国人は自分の魅せ方が上手い。
「どんなん、って…やぐら太鼓とか、盆踊りとか、出店とか、浴衣とか甚平とか…」
「ふーん」
自分から聞いてきたくせに、彼はさほど興味もない様子でスタスタとコンクリートの上を進む。時折吹く風が気持ちいい。
「…ユカタ」
「え?」
「お前、ユカタ着んの?」
「あぁ…面倒だし、暑いからやめとくよ」
「なんで、着りゃいーじゃん」
「だって、着るの面倒だもん」
「王子が脱がしてやるよ。ししっ王子やさしー」
「………」
大木の影、風に前髪を揺らしながら笑う彼の口元。時たま現れるブルーの瞳は優しく細められている。
「…脱ぐのは簡単だから、いい」
「チッ、お前さーもうちょっと空気読めば?そんなんだからオトコできないんだって」
「余計なお世話!オトコの一人や二人…」
「いんの?」
「…何よ」
「いんの?オトコ」
「…いないけど」
「ふーん」
「何よ、すいませんね!デマカセ言おうとして!」
「べっつにー。あ、でも俺、もしお前にオトコいたら、そいつ殺しちゃうかも」
「…は?」
それきり、とんでもなく物騒な発言をした王子さまは私に謎ばかりを残して、再び歩き始めてしまった。その後ろ姿はどことなく楽しそうだ。
「…ねぇ、ベルさんは、夏嫌いなの?」
「嫌い、だけど」
「けど?」
「お前が一緒なら、別に暑くてもいい」
夏祭りと言えば、やぐら太鼓、盆踊り、出店、浴衣に甚平。
「……ベルさん」
「なんだよ」
「…明日、ベルさんも浴衣着てよね」
「…ししっ初めからそう言やいいんだよ」
ブルーの瞳の彼の横、私は明日、何色の浴衣を着ましょうか。あぁそれと、彼の浴衣も買いに行かなきゃ。
「あ、あとお前さ、」
「何?」
「ベルさんって呼ぶの、やめろよ」
「……ベ、ル?」
「できんじゃん」
イタリアからの訪問者。彼にとって、日本の夏祭りが少しでも楽しいものであればいいんだけど。
Summer Beat
「…結局、ベルって何してる人なの?」
「ししっ教えてやんね」