やる、と言って突き出された拳骨に、何も考えずそっと手を添えた。彼はそのまま何も言わずにあたしの手の中にそれを乗せる。
「…なぁに、」
「…、やる」
手のひらに解放されてコロンと出てきたのは、薄く青みがかった透明の石。カットされていない分、かなり不格好で歪な石。手のひらの上で光り輝くプリズム。
「…高そう」
「ただのダイヤだ」
……ただの?ただのダイヤって何?この透明度でこの大きさのダイヤをただのダイヤって。
「…あたし、やっぱりザンザスの感覚ってわかんない」
「必要ねぇだろう」
「なんか意味あるの?君はダイヤの原石だ!みたいな」
指先でそのプリズムをつつきながら言ったら、ザンザスはすごくバカにしたような笑みを浮かべた。
「意味なんかねぇよ、面倒だっただけだ」
「あぁそう」
光に翳す。それはキラキラと輝いて、とてもじゃないけどあたしなんかが買えるような代物じゃない。
「…返す」
「……」
もらった時と同じように拳骨を突き出す。しかしザンザスの手が同じようにあたしの拳骨に添えられるはずもなく、あたしは何も受け止めるものがないまま手を開いた。
カチン、と大理石の床に響く高らかな音。さすがダイヤ。世界一固い石は割れることなく、むしろ大理石の床が心配。顔を上げれば目の前には眉間に皺を寄せた整ったお顔。不機嫌ですと言わなくても自己申告。彼は口数が少ない分、所作が饒舌だ。
「……何してる」
「いらないもん」
簡潔な返事を一言返して、背中を向けた。あたしはこれから仕事です。
「…次の仕事はカス鮫にやらせろ」
「あたしの仕事は?」
「それを拾って、加工させろ」
「いらないってば」
益々深くなっただろう眉間の皺。一度も振り向かないで、あたしは一歩踏み出した。
オウンゴール
貰ってほしいなら、それなりの態度と言い方ってものがあるんじゃない?