遊真は時折、一人で玉狛支部の屋上に昇る。自分たちとはまるで違う地平に存在しているかのような街の光を瞳に映してから、そっと瞳を閉じる。そして、彼女の冷たい指先と、唇の熱を思い出す。何度もなんども彼女の名前を心の中で呼ぶ。「なまえ」。その度に、彼女が呼んだ自分の名前を思い浮かべる。「空閑」。「遊真」。忘れないように。

日々は光のような速さで進んでいくばかりだ。

*

儀式めいた雰囲気の中を進んでいったなまえの背中を見送ってから数ヶ月。最後に『ありがとう』と紡いだ彼女を時折思い出しながら、遊真は日々をめまぐるしく過ごしてきた。

なまえがボーダーから姿を消した後、遊真が事情を隠しながらも『人から貰った大切なものがあるが、小さすぎて失くしそうだ』と打ち明けたのは、雨取だ。雨取はその翌日、遊真に小さな蓋つきのケースを一つ贈った。
遊真はそれをありがたく受け取って、玉狛支部内に用意されている部屋に戻るなりすぐ、申し訳程度にティッシュで包んだ彼女の耳飾りを丁重にその中に納めた。

部屋にいるときはだいたい、その耳飾りを眺めている。どうしても勝ちたいランク戦のある日や、本部外での防衛任務の日に、部屋の机の上に鎮座しているその耳飾りはケースに入ったまま外に出された。遊真は祈る神を持たない。その代わりに、自分の瞳と同じ色の、彼女が確かにボーダーに存在した証であるその耳飾りに祈る。

遊真はそうやって、日々を送っている。




死んでしまった神様へ
6-X.X





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