「ウチ、アンタが笑うの嫌いだ」


蒸し暑い夜のこと。勝手にあたしの部屋に入ってきた男は、ソファで煙草を吸うあたしを見下ろしてそう言った。


「……は、」


肺の中で行き場を探している煙を一思いに吐き出す。その煙が彼の歪んだ表情を更に歪めて、そしてまた彼は同じ台詞を復唱する。


「アンタが笑うの、嫌いだ」


先の短くなった煙草から、長くなった灰が落ちる。ふわふわ。開け放した窓から吹き込む風に乗って散り散りに。


「…それは、あたしがスパナ以外に笑うのが嫌だとか、」

「そんなかわいい理由じゃない」


煙草を灰皿に押し付ける。壁にかかった時計を見上げれば、それは深夜2時を回ったことを告げていた。


「……もう遅いし、寝たら?」

「……そうする」


スパナはソファの上に足を投げ出したままのあたしを見つめてため息を吐くなり、あたしのベッドへと倒れ込んだ。


「どうしたの。随分疲れてるね」

「疲れさせてんのはアンタだ」

「あたしのせいじゃないでしょ」


それきりスパナは黙ってしまって、背後のベッドからは微かな吐息しか聞こえなくなった。


「……スパナ」


寝たのか、と背後を振り向く。しかし寝たかと思っていたスパナは、まっすぐにあたしを見つめていた。


「…アンタが笑うと、ウチがイイヒトみたいな気になる」

「……はぁ?」


何を言ってるんだこの男は。あたしが笑うと自分がいい人に思える?


「じゃあ何、あたしがスパナに笑わなければいいの」

「………」

「………」

「それはダメ」


…なんだこの面倒な男は。笑うのが嫌なのか、笑わないのが嫌なのか。はたまた。


「……わかった」

「何が」

「生身の人間との関わり方がわかんないんでしょ」

「………というより」

「ん?」

「ウチが関わりたい生身の人間は、アンタだけだから」


それきり、スパナは本当に黙り込んでしまった。枕に顔面を埋めて、背中だけが上下する。


「…苦しくない?」

「………」


静寂に響く時計の針の音。とりあえず、今日のところは電気を消そう。


「おやすみ、スパナ」







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人を愛して人を殺す




「……アンタなんでソファで寝るんだ」

「ベッドにスパナがいるから」

「………」




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