「その日、うちからは秀次が防衛任務に出てた。俺が知ってるのは、秀次から聞いたことだけだ」

米屋が人差し指でテーブルを一度叩いた。苛立っているようには見えない。遊真はなぜだかリラックスした気分で、米屋の指先を見つめて、耳を澄ませた。

「なまえが元々B級のアタッカーだったことは知ってるか?」
「アタッカーだったことは」

遊真の視界の中で、米屋が一度微かに頷いた。

「防衛任務が入ってて、迅さんがなまえを探してたらしい。今思えば、たぶん迅さんにはその後何が起きるのかわかっていたんだと思う。……結局、間に合わなかったけどな」

なまえにはその日防衛任務が入っていた。三輪も同じく防衛任務だった。迅はその後に起きることを予知して、なまえを探していた。恐らくなまえの配置場所を変えるためか、誰かを先に差し向けるためだ。しかし間に合わなかった。だからなまえは、目の前で人を喪った。遊真は、米屋から与えられた情報を整理する。

「見つけたのは、だれだ?」
「太刀川さんだ」

間髪入れずに即答した米屋が、のんびりした動作で立ち上がって、冷蔵庫から水が入ったペットボトルを持って戻ってきた。遊真は手元の缶ジュースに口をつけて、一口飲み込んでから赤い瞳で米屋を見上げる。

「なあ」

遊真の反応を待たず、米屋が呼びかけた。

「なんだ?」
「なんでなまえのことをそんなに知りたがんの」

その問は、遊真がかねてより自分自身に向けていた問とぴったり重なった。遊真はまだ、その解答を持っていない。人とほとんど目を合わせない黒い瞳、見覚えのある暗い眼差し、人との接触を頑なに拒絶する仕草。それらが遊真の心を捉えて離さない。

「おれにもわからない」

率直な返事に、米屋は口元をほころばせた。自分の感情の出どころを説明出来ない事はよくあることだ、と判断したからだ。

「太刀川さんが到着した時、モールモッドのブレードがなまえに振り下ろされる直前で」
「うん」
「太刀川さんはモールモッドを両断してから、人の頭が、道路に転がってるのを見た」

太刀川が見たであろうものを、遊真は心の中で一つずつ数えた。自分が真っ二つに斬ったモールモッド、道路に転がる人の頭、鮮血に汚れた道路、血に染まったなまえ。太刀川は恐らく、何が起きてしまったのかを瞬時に理解したはずだ。

「太刀川さんは何度かなまえに話しかけた。でも、返事はなかった。なまえの顔は血まみれで、どんな表情だったのかはわからなかったって聞いた。動く気配のないなまえを本部まで連れ帰ったのは、太刀川さんと、太刀川さんから通信を受けた秀次だ」

ふたりがなまえを本部に連れて帰ってきた。そしてきっと、太刀川は上層部に事の仔細を報告した。そこに誰が同席していたのかはわからないが、少なくとも三輪もいたはずだ。だからこそ、米屋がその事件を知っている。

遊真は心の内で自分に問いかけた。何故なまえに起こったことをこんなに知りたがるのか。その答えは、依然として与えられないままだ。



死んでしまった神様へ
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