遊真は加古と黒江と別れてからしばらく、人気のない市街地を自転車で走った。ボーダー本部は目の前に見えていたが、エントランスまでは迂回する必要があったからだ。

本部の敷地の駐車場の一角に自転車を停めた遊真は、迷うことなくエントランスをくぐる。その足でまっすぐに向かったのは、人が一番集まる食堂だ。


*


「白チビ」

遊真は食堂に入って、入口のすぐ横にある自動販売機でジュースを買った。その背後で名前を呼んだのは、米屋だった。

「よーすけ先輩」

遊真は見知った人物との邂逅に少しほっとして、缶ジュースを片手に米屋を振り返ると、軽く手を上げて無言で簡単な挨拶をした。

「ヒマそうじゃん。バトろうぜ」
「いいね」

「でもこれ飲んでからでいいか?」遊真は缶を顔の高さまで掲げて言う。米屋はいつものように不敵な笑みを浮かべてから「早くしろよ」と、遊びに行く直前の小学生のような興奮を持って遊真を急かした。

遊真はここでも、訊ねてみようと思い立った。一体何人が、誰がなまえを知っているのか、妙に気になって仕方がなかった。

「よーすけ先輩」
「ん?」
「なまえって知ってるか?エンジニアの」

米屋は加古とはまた違った反応を見せた。唇を結んで、眉間に皺を寄せ、手持ち無沙汰の右手で額を掻いた。言葉を選んでいる気配が、ふたりを包んだ。遊真は缶のプルタブに引っ掛けた爪を引いた。プシッと爽やかな音がした。

「……知ってる」

五分程度の時間をおいて米屋が口にしたのは、その一言だけだった。遊真は確信を持って米屋に詰め寄る。米屋がつばを飲み込んで、喉仏が微かに上下した。

「あんまりあいつに深入りすんな」

尚も言葉を選び、伝える事実と伝えてはいけない事実とを静かに取捨しようとする米屋に、遊真は「ばしょを変えよう」と提案した。続けて、「なまえが見つかったときのことは、少しきいてる」と、米屋の顔を見ずに言った。

場所を変えることを提案した遊真に、米屋は無言で話す場所を案内した。遊真は先をつかつかと歩く米屋のあとをついて行く。到着したのは、三輪隊の作戦室だった。米屋が扉を開けて中に入る。誰もいない作戦室は空調が切ってあって、生ぬるい空気が淀んでいた。

「さくせんしつに全員いないってこともあるんだな」
「時々な」

米屋が空調のスイッチを入れて、作戦室に入ってすぐのテーブルにつく。それを追うように米屋の向かい側の椅子に座った遊真を、米屋は肘をついてまじまじと見つめる。

「久々の作戦室であの話か」

嘆く口調の米屋の目が、無感情に細められた。



死んでしまった神様へ
2-2





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -