朝、カーテン越しに差し込む陽光に目を細めながら、ベッドの上に転がって夜通し寝返りを打ち続けていた遊真が上体を起こした。

ラッキーなことに、その日は完全な休日だった。学校が休みで、防衛任務も入っていなくて、ランク戦もない。三雲は前日、夕方頃に玉狛に顔を出すと言っていた。気を張る予定のない翌日のせいで、その表情は弛んでいた。ただし、完全な休日と言うのは遊真にとってはヒマすぎるアンラッキーな日だった。

のろのろとベッドを降りて、リラックスした室内着から服を着替える。窓の外からは鳥の囀りが聞こえる。


*


完全な休日を手にした遊真だったが、生活リズムは普段通りだった。木崎が作った簡単な朝食をとってから、上達した自転車にまたがってボーダー本部へ向かう。生ぬるい風が額をあらわにして、少し気分が良くなった。

「あら、空閑くん」

行く道の斜め前で腕を組んでいたのは、隊服を身につけた加古だった。
辺りに敵の姿がないことを確認してから、遊真はやっと、少し前から警戒区域に入っていたことに気付いた。

「おや、おつかれさまです」

緩やかにスピードを落として、自転車を停め、片手を上げる。加古は面白がる表情で「防衛任務入ってたかしら?」と訊ねた。

「いやいや、今日はなんの予定もないです」
「あら、じゃあ個人ランク戦?」

あらかたの任務が終わっているのだろう。加古はくつろいだ口調で、時々人待ち顔で顔を上げながら遊真に話しかける。正直何をする為でもなく、本部に行けば誰かしらがいるだろうと玉狛支部を出てきた遊真は、それがいいな、とひとり納得した。

「誰かがつかまったら」
「誰かしらはいるわよ。日曜日だし」

そこで遊真は、ふと思った。加古はなまえのことを知っているのだろうか。そして、なまえをどう評価しているのだろうか。先日心の内をたぶんほんの少し打ち明けたなまえの、陰った眼差しと感情を締め出した表情が頭に過ぎる。

「かこさん」
「なあに?」
「エンジニアのなまえって、知ってますか?」

途端に加古は思案する顔つきになって、そして遊真の背後に軽く手を振った。背後からは高い声が加古を呼んだ。

「双葉、そっちも終わった?」
「はい」

弧月を背負った黒江が、軽い足取りで遊真を追い越す。加古は満足そうに微笑んだ後、厳しい顔つきで遊真に視線を戻した。

「……彼女が発見された時、辺りは血まみれだったと聞いてるわ。彼女自身も。怪我を負ったのかと思ったけど、トリガーオフされていなかったから、彼女が怪我を負ったとは考えられなかった。つまり、彼女は至近距離で市民の血しぶきを浴びたということ。私が知っているのは、そのくらい」

遊真の問を正確に把握した加古は、自分が知る限りの事実を遊真に与えた。加古の言葉に嘘はなかった。遊真はそれを内心で確かめてから、これ以上聞いても仕方が無いと結論づけて、自転車を降りた時のように軽く手を上げて「では」と言った。加古は「うちの隊に来てって話、考えが変わったら連絡してちょうだい」と笑った。その表情はなまえのことを口にした時の厳しい表情とは打って変わっている。




死んでしまった神様へ
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