それから、二人でソファに座って手を繋ぎながら、朝まで話した。

少年のお父さんとの別れ、いくつかの大規模な戦闘で失ったものと得たもの、お目付け役だったレプリカとのきっと一時的な別れ、玉狛支部の面々の性格、相棒なのだというメガネの少年、ボーダーでの出会い。

私も問われるままにいろいろなことを話した。
生い立ち、家族構成、学生時代の思い出、初恋の苦い体験、仕事での失敗談、恋人との出会いと別れ、旅行した場所。

窓の外が白んできた頃には、最後に話してから今日会うまでの複雑な心のプロセスをぽつりぽつりと互いに聞かせ合った。


「俺はたぶん、ずっとなまえのことが好きだ」

「うそだ」

「ウソじゃない。……それが、俺がなまえにあげられるぜんぶだ」


何の予定もなかった土曜日が始まる。
ひとしきり話したところで少年のお腹がぐうと一声悲鳴を上げて、少年が胃の辺りを撫でながら「おお...」と感嘆の声を上げた。


「信じていいの」

「なまえは、俺が生きていたいと思う理由のひとつだよ」


少年が生きながられる方法は、見つかっていない。それでも私は耐えると決める。少年が私を好きでいる限り、私が少年を好きでいる限り、隣にいると決める。
決めてしまえば、気持ちはとても穏やかになった。


「たくさんのことを聞いて、遊真が戦って、帰ってくる場所が、私の隣であればいいって、そう思っちゃった」


窓の外はどんどんと明るくなる。カーテン越しでも目を細めないと眩しい朝日に照らされて、体の隅々にまで活力が行き渡るようにも思う。とても、爽やかな朝だ。


「俺は、なまえのこれまでとこれからをぜんぶ大切にしたいって思った。好きになった男の話は聞かなければよかったけど」


とても素直にふてくされた少年が、私の方へもたれ掛かる。

何も解決できないけれど、少年は私を生きる理由にしてくれた。私は少年に、私のこれからの時間をあげるんだと決めた。それが未来につながるんだと信じるほかに何もなくても、つないだ手はあたたかい。


「遊真、朝ごはんを食べに出かけよう」

「腹も減ったけど、ゆっくりしたいな」

「帰ってきたらひと眠りしようか」

「...そうだな。二人で」

「うん、二人で」


ソファを立った少年が、ポケットからふたつ折りの紙を取り出した。広げたそれは少年が持ち出した私の写真。それは既にシワがよっていて、少年がいつも肌身離さず持ち歩いて、何度も何度も開いては眺めていたのだということがわかった。


「帰ってきたら、写真をとろう」

「うん」

「なまえはその写真を部屋に飾る」

「そうだね」

「俺はそれをずっと持ってる」


二つ折りにした写真を広げて伸ばした少年が、まだ今より少し若い私の笑顔を眩しそうに、微笑ましく見つめて、テーブルの上に置いた。

そして私に手を差しのべる。太陽に照らされてキラキラと輝く白い髪に、優しげに私を待つ赤い瞳。
その手をとって立ち上がり、部屋の中を案内して、交互にシャワーを浴びた。一緒に入ろうと誘われたけれど、気恥ずかしくて断った。

一日が始まる。

すっかり着替えて休日の化粧を施した私に、同じ格好だけどスッキリした面持ちの少年。


「今度みんなを紹介する」

「メガネの少年にお礼を言わないと」


鞄を肩にかけて、二人で玄関に立つ。ドアノブに手をかけて扉を開けば、そこにはもう春の陽気があった。


私たちは笑い合う。体を寄せ合う。触れ合う。見つめ合う。
そして今日も、手をつなぐ。




よろしい、ならば 終天


END









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